異世界で逆ハーレムってアリなんですか?

 久しぶりに冒険者ギルドにやってきた。
 薬の素材がなくなりそうなので、素材屋さんに行ったけど、在庫切れだったからギルドにやってきた。
 ギルドは少し混んでいて、時間がかかりそうだった。
「よお、メイナ、何か依頼か?」
 肩を叩かれ、振り返ると、レストさんだった。
「はい、薬の素材の在庫がなくて、採集の依頼でも出そうかと思いまして。私も一応冒険者登録しているんですけどね、へへへ」
 苦笑いして誤魔化した。
「まあ人には向き不向きがあるしな、何なら俺が個人的に採集してもいいぜ? その方が早ぇからな」
「Aランクのレストさんに薬草採集をお願いするなんてできませんよ。私には無理でもそんなに難しい依頼ではないと思うので」
 苦笑いして申し出をやんわりと断った。
「それもそうだな。今日はお店休みか? それなら俺と――」
「ああー! レストの兄貴! あの時の聖女様じゃあないっスか!」
 突然大きな声で誰かが叫んだ。
 声の主の方を見ると、レストさんが大怪我した時にレストさんを店まで担いでいた男性の一人だった。
「あの時は、レストの兄貴を助けてくれてありがとうございました! 聖女様!」
 男性が私達の元へ駆け寄ってきた。
「ったく、ムルグス、大声出すな! それと聖女様じゃねぇ、メイナだ!」
 レストさんがムルグスさんの頭を叩いた。
「すんません、つい。名前を忘れて、ずっと聖女様って呼んでいたんで。あの治癒力マジ半端ないっスよ、まるで聖女って感じでしたっス」
 ムルグスさんの声があまりに大きかったせいか、受付フロアにいる他の冒険者達が皆こちらを見ている気がする。
「聖女様? もしかしてレストさんの腕を生やしたっていうあの噂の?」
「誰? 聖女様?」
 周りの人たちが口々に何か言っているのがざわざわと聞こえてきた。
 私達、何かすごく目立ってない?
 レストさんを見ると、頭を掻いてため息吐いたいた。
「メイナ、一旦ここから離れようぜ。ムルグス、お前も一緒に来い!」
 レストさんの提案に頷き、レストさんに手を引かれて列から離れた。ムルグスさんも後ろから付いてきた。
「お前、あの時の事、誰かに話したのか?」
 レストさんがムルグスさんの胸倉を掴んだ。
「す、すんません。あの後、ギルドに討伐報告に行った時に、他の冒険者が兄貴の腕の怪我の事を知っていて、もう冒険者続けられないと言うもんで、つい、聖女様が腕を治してくれたから大丈夫っス、て言っちまったんスよ」
 ムグルスさんが申し訳なさそうに説明した。
「見られていたのは仕方がねぇが、ったく、そんなの適当に誤魔化しておけば良かったものを」
 レストさんがため息吐いた。
「でも! 兄貴が再起不能みたいに言われるのが我慢ならなかったんス!」
 ムグルスさんが興奮した様子でレストさんに詰め寄った。
「わかった、わかった! もういい。言っちまったもんは仕方がねぇ。メイナ、コイツがすまねぇ。今日の用事は諦めてくれ。ここから出るぞ?」
 レストさんが私の手を握り、外に出ようとした。
「おい、レストの旦那、その人が噂の聖女様か?」
「レストよぉ、噂の聖女様を拝ましてくれよ」
 レストさんの知り合いらしき冒険者さん達が私達を囲み始めた。
「ちっ、捕まっちまったか」
 レストさんが舌打ちしながら立ち止まった。
「それで、その聖女様は誰なんだい?」
 また別の冒険者さんが尋ねてきた。
「こいつは聖女じゃねぇ」
 レストさんが不機嫌そうな声で言った。
「さっきムグルスが聖女様って呼んでいたじゃねぇか!」
 荒っぽそうな冒険者さんがレストさんを睨んでいった。
「「聖女!」」
「「聖女様!」」
「「聖女様っ!」」
 何故か聖女コールが始まった。
 私聖女なんかじゃないのに。
「うるせぇ! コイツは聖女じゃねぇ、俺の女だっ!」
 レストさんが私の肩を抱いて叫んだ。
 囲んでいた冒険者さん達が一瞬静まり返った。
「おい、聖女がレストの女だってよ!」
「マジか~羨ましいぜ」
「嘘だろ? 美女と野獣じゃねぇか」
 また冒険者さん達が騒めき始めた。
「あの、私聖女じゃありません。メイナ・カミナカと言います。オアシスという店の店主です」
 取り敢えず聖女じゃないとアピールしてみた。
「あ、どうりで見た事あるはずだ。メイナさんのお店の薬、安くてよく効くっていう噂を聞いて、何度か買いに行きました」
 若い冒険者さんが言った。
「うちのパーティもメイナさんところの薬にお世話になっているぜ」
「一部の冒険者仲間ではマジで聖女じゃねぇかって、噂になっていたぐらいだしな」
「知り合いの騎士連中も聖女みたいな女性って噂していたもんなぁ」
「あの、薬を購入していただいてありがとうございます。でも聖女だなんて恐れ多いので呼ばないで下さいね」
 メイナがにっこり笑って言った。
「かわいい」
「マジでレストの恋人なのか? 勿体ねぇ」
 冒険者さん達が詰め寄ってくる。
「おい、お前ら、本人がこう言っているんだから、聖女なんて呼ぶんじゃねぇぞ!」
 レストさんが睨みを効かせて言った。
「わ、分かったよ、誰も旦那を怒らせることはしねえ、なぁ皆」
「そうだな、本人も嫌がっているみてぇだしな」
 冒険者さん達も分かってくれたみたいだわ。
 もしこの世界に本当の聖女様がいたら申し訳ないもの。
「ほら、メイナさんが困っているっスよ。これにて散会っス」
 ムグルスさんがそう言うと、皆さんしぶしぶと離れて行った。
「メイナ、このスキに出るぞ」
 そう言って、レストさんに肩を抱かれたまま外に出た。
「ここまでこれば大丈夫だ」
「あの、レストさん、一つ訂正するのを忘れていました。レストさんの、その、こ、恋人だと皆さんに勘違いされています」
 恋人って言葉を言うのが何だか恥ずかしくて、どもってしまった。
「いやか? 俺の恋人だと思われるのは」
 レストさんがじっと私の顔を見つめてくる。
 イケメンに間近で見つめられると緊張する。
「えっと、嫌とかそういうのではないですけど、その、レストさんの恋人に悪いじゃないですか」
 こんな素敵な人なんだもの。やっぱり恋人はいるわよね。
「そんなモノいねぇよ。それにアイツらには俺の恋人だと思われていた方が、今後大抵のヤツには絡まれなくなるぜ?」
 レストさんがニッと笑った。
「それで恋人宣言してくれたんですね。ありがとうございます」
 私の事を心配してくれたのが嬉しくで、自然と笑顔になった。
「それもあるが、俺はメイナの本当の恋人になっても構わないぜ」
 レストさんの顔が近づいてくる。
 心臓がドキドキして止まらない。
「レストの兄貴、ここにいたんスね」
 ムグルスさんの声がした。
「いいところで……」
 レストさんがため息吐きながら呟いた。
「メイナさん、さっきはホントすんませんでした。オレ、兄貴とパーティを組んでいるムグルスと言うッス」
 ムグルスさんがしょぼくれた顔で謝った。
「気にしないで下さい。ちょっとビックリしましたけど、皆さんも分かってくれたみたいですし」
「メイナさんが優しい人で良かったっス。兄貴の事、よろしくお願いするッス」
 ムグルスさんは頭を下げた。
「え? よろしくって、あの」
 戸惑っていると、分かっているっスよ、と言いたげな顔をした。
「じゃあ、また!」
 笑顔で去って行った。
 ムグルスさんも誤解したまま行ってしまったわ。
「ったく、雰囲気ぶち壊しだぜ」
 レストさんが苦笑いして言った。

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青猫かいり

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