変な手紙をもらって一週間が経った。
今日もお店はお客さんの入りも上々で売り上げが期待できた。
最近は隣の騎士団以外にも別の騎士団の方や、冒険者っぽい出で立ちの人達が薬を求めてやってくる人が増えた。小物やお茶の葉、店の横に小屋を増築した飲食スペースは庶民の奥様方や若い女性が増えてきたと思う。トゥールくんがかなり接客を頑張ってくれている。盛況なのはいいことだわ。これならトゥールくんのお給金も上げることができるわ。
店内の販売スペースの方のお客さんが帰って途切れたところに、明らかに貴族令嬢と分かる服装とした女性が四人やってきた。
え? 何でこの店に貴族令嬢が? 自分で言うのも何だけど、貴族令嬢が買うような商品が置いてあるとは思えないのだけど。もしかして茶葉とか薬とかが欲しいのかな? それなら分からなくもないけど、でもそういうのはお付きの人や家の使用人とかが代理で来そうなものだけど。
「あらぁ、何このお店? ダサいし貧乏くさいし、売っている物も微妙そうだわ。こんなお店にあの方が通っているなんて本当かしら?」
「ええ、こんな庶民の店にあの方達が通うなんてありえないわ? 何かの間違いではなくて?」
「ねぇ、そこのアナタ、この店の店主を呼んで下さるかしら?」
ご令嬢の一人が扇子で私を指して話かけてきた。
「えっと、私が店主のメイナ・カミナカですけど……」
お客さんではなさそうだけど、身分の高そうな人達だし、尋ねられたら答えるしかないわよね。
「そう、アナタが……」
四人の嫌な視線が頭から爪先まで感じられた。
「オホホホオ、通っていると聞いて心配で来てみましたけれど、心配するまでもなかったようですわね」
中でも一番気位の高そうなご令嬢が手にしていた扇子を広げて口元を隠して言った。
「この程度ならジュミナ様の勝ちですわ。容姿も気品も知性も身分もどれを取っても、ジュミナ様の相手にすらなりませんもの」
ご令嬢の一人がジュミナと呼ばれたご令嬢をヨイショしているみたいだった。
「ええ、ジュミナ様には誰も敵いませんわ」
別のご令嬢が扇子で口元を隠して言った。
「そう? ありがとう。レミー様だって素敵よ。負けていませんわ」
「そうですわ、お二方とも素敵ですわ。あんな野暮ったい平民女など、勝負にすらなりませんわ」
また別のご令嬢が中心二人のご令嬢をヨイショしているみたいだった。
この人達、一体何しに来たのかしら? お客さんではないのなら、入り口を占領していないで帰ってくれないかしら?
「あの、何か御用ですか?」
取り敢えず店主として当然の事を尋ねてみた。
「嫌だわ、私達がこんな店で買い物なんてすると思っているのかしら?」
取り巻き(?)のご令嬢が心底嫌そうに言った。
「どうやら私達、お店を間違えてしまったようですわね。帰りましょう」
レミーと呼ばれたご令嬢が言った。
「そうですね。貧乏くさいのが移ったら大変ですわ!」
もう一人の取り巻き(?)のご令嬢がちらっとこっちを見て言った。
「その様な事を口にしてはいけませんわ、いくら本当の事だとしても。オーホホホオ」
ジュミナと呼ばれたご令嬢が高笑いして店を出ると、他のご令嬢もそれに続いて出て行った。
「すっげー感じが悪いヤツらだったけど、メイナさん、大丈夫?」
カウンターで作業をしていたトゥールくんが心配そうに声をかけてきた。
「ええ、大丈夫よ」
心配させないように言った。
来店の目的は分からなかったけど、何かされた訳ではないから。
「メイナ、大丈夫ですか? 今、貴族のご令嬢達とすれ違いましたが、何かされたりしまませんでしたか?」
セドリックさんが慌てて店にやってきた。
「いえ、何も。大丈夫ですよ。何かお店を間違えたみたいな事を言って帰っていきました」
私は苦笑いして言った。
「そうですか。貴族のご令嬢がこの辺りに来るのは珍しいですからね。例の手紙の件もありますし、何もなかったのなら良かったです。今日はもう用事は済みましたから、閉店までいさせて下さい」
セドリックさんがほっと安堵した声で言った。
「では、今、お飲み物をお持ちしますね。トゥールくん、休憩にしましょう」
さっきまでちょっとだけモヤモヤというか、嫌な気持ちもあったけど、トゥールくんとセドリックさんが心配してくれているのが嬉しくて完全にどこかへいってしまった。
お礼に取っておきの飲み物とお茶請けを出しちゃおう。
キッチンに向かう足取りが自然と軽くなった。
翌日、ニコラス様とカイト様がお店にやってきた。
「メイナ、すまなかった。もう手紙の件は心配いらないからな」
カイト様が申し訳なさそうに言った。
何でカイト様が謝るのかしら?
「私達のせいですまなかったね。このような事は二度と起きないから安心してね」
ニコラス様も謝ってきた。
二人とも悪くないのに、変だわ。それに二度と起きないって、首謀者を見つけてニコラス様が何か手を打ったということかしら? うん、詮索するのは止めておいた方がいいかもしれない。聞かない方がいいこともあると思うの。だって、ニコラス様の今の笑顔がちょっとコワイ気がするもの。まあ悪戯だったということで納得しておくのが一番よね。
「ありがとうございます。問題解決したなら良かったです」
私は満面の笑みで答えた。
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