異世界で逆ハーレムってアリなんですか?

「こんな処に呼び出してすまないね」
 ニコラス様が申し訳なさそうに言った。
 こんな処って、ここ王城の中ですよ? しかもニコラス様の執務室だとか。
 庶民からしたら一生縁がないような場所だから、物珍しくて門をくぐってからずっとキョロキョロしてしまっていた。
 応接セットのソファに座わっている今も、つい部屋を見渡したくなる。
「いえ、何か急用だと伺いました」
 そう言えば、向い側のソファに座っているニコラス様は顔色が悪く、どことなく元気がなさそうに見える。
「ああ、今から話すことは重要事項だから、誰にも話さないでほしい」
 ニコラス様の真剣な表情に、ちょっと体が強張る。そんなに大事な話を私が聞いてもいいのだろうか。何故私に話すのか、それは内容を聞けば分かるのだろうけど。
「分かりました。絶対に誰にも言いません」
 緊張しながら答えた。王城に呼ばれるぐらいなのだから、よほど重要な話よね。
「実は、父上が病に臥せっておられてね。侍医達も最善を尽くしてくれてはいるのだけれども、一向に症状が改善しないんだ。メイナに売ってもらった全回復と全治療の薬を飲ませたら、一時的には快復したものの、また臥せってしまわれた」
 え? ニコラス様の父上っていう事は、この国の王様⁉
「それで、もしかしてメイナなら治せるのではないかと思って来てもらったんだ。取り敢えず、父上を診てもらえないだろうか?」
 ええ⁉ 私、医者じゃないし、あの薬でダメならお手上げじゃないかしら?
 でもそうよね、藁にも縋る想いなのよね、きっと。
「……あの、私は医者ではないので、治せるとは思えません。でも、何か出来ることがあれば、とは思います」
 正直な胸の内を話した。
「それでもいい。とにかく診て欲しい」
 いつもとは明らかに違うニコラス様の表情。本当に困っていらっしゃるのね。お父様を助けたい、その気持ちが痛い程に伝わってくるようだわ。
「分かりました。見るだけになってしまうかもしれませんが、それでもよろしければ……」
「ああ、それでいい。早速案内しよう」
 ニコラス様が立ち上がって私の手を引っ張った。慌てて立ち上がって、ニコラス様に引っ張られるまま足早に付いていった。
 ニコラス様の様子から一刻も争う状態なのかもしれないと思わずにはいられなかった。
「急がせてしまってすまないね。ここが父上の寝所だ」
 部屋の前には護衛の騎士が二人立っていた。
 ニコラス様が扉を開けて、私を連れて中に入ると、扉が閉まった。多分護衛の人が閉めたのだろう。
 部屋の真ん中に大きな天蓋付きのベッドが配置されており、そこに王様が寝ていた。ベッドの傍には女性が一人と男性が二人居た。
 女性は座って王様の手を握って今にも泣きそうな顔をしていた。
「母上、彼女がお話ししていたメイナ・カミナカです」
 ニコラス様が女性に近づき、私を紹介した。
 母上って、王妃様? 粗相のないようにしなくては。
「メイナ・カミナカと申します」
 淑女のようにスカートを持って挨拶した。
「ニコラスの母です。メイナさん、お願いね」
 憔悴した顔の王妃様が立ち上がり、ベッドから離れてこちらに来ると、私の手をぎゅっと握った。
 男性二人もベッドから離れ、王妃様に付き添った。
「メイナ、こちらへ」
 ニコラス様に促されて、ベッドのすぐ横まで近寄った。
 王様の顔色が悪い。頬がこけてやつれているみたいだわ。
 また薬を飲ませてもダメかもしれない。取り敢えず王様のステータスで状態を確認してみる。
≪ギュルセレッダの呪いにかかっている。徐々に体力・魔力を奪われ死に至る呪いの為、体力・魔力低下中≫
 呪い⁉ え? 全回復の薬なら状態異常も回復できるはずなのに、何故?
 ギュルセレッダの呪いって何?
「ギュルセレッダの呪い?」
 ニコラス様の怪訝そうな声が聞こえた。
 しまった。うっかり口に出していたみたい。
「えっと、その……」
 何て説明すればいいのかしら? ステータス画面が見えるなんて言ったら、頭がおかしいと思われるのかしら?
「……父上の右手中指の指輪が、確かギュルセレッダ遺跡から発見された指輪だったと思うけど」
 ニコラス様が少し考えてから思い出したというような表情をしている。
 そうか、指輪! 指輪が呪いの大元かも。
 指輪のステータスを確認すると、思った通り、指輪が呪いの媒体となっているみたいだった。
 指輪を外せればいいのだけど、もしかしたら触っただけでも呪いを受けるかもしれないわ。それなら、指輪ごと王様の体から呪いを取り除かなくてはいけない。できるかしら?
 できるか分からないけど、呪いを払うイメージで魔法を使ってみるしかないわ。
「解呪!」
 呪いなんかどこかへ行って! 消えて無くなれ! お願い!
 両手をかざしてできるだけの魔力を込めながら、呪いを取り除いて消滅させるイメージで祈った。
 指輪と王様の体が光ったかと思うと、黒い何か出てきて消滅するような幻覚を見た気がした。
「何だ、今のは……」
 少し離れた処から男性の声が聞こえた。
 王妃様に付き添っている男性の声だと思われる。
「今のは一体⁉」
 ニコラス様が驚きの声を上げた。
 王様と指輪のステータスと確認すると、呪いが消えていた。後は王様の体力と魔力を回復するだけだわ。
「ニコラス様、この全回復の薬を飲ませてられますか?」
 アイテムボックスから取り出した薬をニコラス様に差し出した。
「あ、ああ。しかし、一時的に回復しただけだったから、飲ませても……」
「多分大丈夫です。飲ませてみて下さい」
「分かった。飲ませてみよう」
 ニコラス様は薬を受け取ると、王様の体を起こした。
「父上、この薬をお飲み下さい」
「あ、ああ」
 王様の力ない声が聞こえた。
 ニコラス様が王様の口に薬瓶をあてがい、少しずつ飲ませた。王様の喉がゴクリと最後の音を出した頃には、王様の顔色が良くなっていた。顔のやつれも消えていた。
 ステータスでも異常なし。良かった。これで大丈夫だわ。
 ほっと胸を撫で下ろした。
「おお、力が漲って来る!」
 王様が感嘆をもらした。
「父上、もうお体はよいのですか?」
「ああ、この通りだ。もうすっかり元気になったぞ」
 王様がベッドから立ち上がろうとしたところ、王妃様が傍に駆け寄ってきた。
「あなた! お元気になられたのですね! 良かったです。でも念の為、もう少し養生して下さいませ」
「そうだな。お前の言う通りにしよう。ところで、そこのお嬢さんは誰なのかな?」
 王様が私の方を見て尋ねた。
「彼女の名前はメイナ、父上の病を治したのですよ」
 ニコラス様が嬉しそうに私を紹介した。
「メイナ・カミナカと申します」
 またもや淑女の挨拶をする。
「助けてもらい感謝する。後で褒美を取らせよう」
「いえ、褒美だなんて恐れ多いです。感謝のお言葉を頂けて光栄に存じます」
 慌てて辞退した。
「そうか、まぁその話は後でしよう。しかし、どうやって私の病を治したのか? 飲んだ薬は何だったのだ?」
 王様は不思議そうな顔をした。
「メイナ、私も知りたい。前と同じ薬だからまた容態が悪化したりしないだろうか? それにあの黒い物は一体……」
 ニコラス様も心配そうな顔を見せた。
「もう大丈夫です。王様は右手中指にはめている指輪の呪いによって、体力・魔力を徐々に低下する呪いを受けた状態になっていました。ですので、指輪とお体の両方の呪いを消滅させ、全回復の薬で魔力と体力を回復しました」
 呪いなんて信じてもらえるかは分からなかったけど、正直に話した方がいいわ。
「それでギュルセレッダの呪い、って言っていたんだね。なるほど、あの黒い物の正体は呪いか。だから薬を飲んでもまたすぐに呪いの影響を受けていたということだね」
 ニコラス様がひとり納得しながら頷いていた。
「確かに、この指はギュルセレッダ遺跡から出土した指輪だが……そうか、呪いがかかっていたのか。しかし、メイナ嬢は呪いを解く方法を知っていたのか?」
 王様が私をじっと見て確認してきた。
「その、解き方は分からなかったのですが、いつも魔法を使うイメージで、呪いを取り除いて消滅させるように念じて魔力を込めたらたまたま成功したのです」
 これは本当の事だけど、じゃあ何でそんなことが出来るのかと聞かれたら、答えようがない。笑って誤魔化せないでしょうか?
「彼女が手をかざした時、あなたと指輪からうっすらと黒い何かが出て行くのがみえましたわ。彼女の力は本物のようですわ」
 王妃様が援護してくれた。あれって幻覚じゃあなかったのね。
 ニコラス様が王様に何かを耳打ちした。
「そうかそうか、なるほど。とにかくメイナ嬢のおかげで命拾いした。改めて礼を言わせてもらおう」
 王様がにこにこして言った。
 ニコラス様は何を言ったのかしら? でもこれ以上追及されないのはありがたいわ。
「メイナさん、私からも礼を言わせてもらうわ。ありがとう」
 王妃様が満面の笑みを見せた。
「お役に立てて光栄にございます」
 国王夫妻にお礼を言われて恐縮してしまう。
「私からもお礼を。メイナ、本当にありがとう」
 ニコラス様が私の両手を握りしめて嬉しそうに言った。
 いつもの腹黒い(?)笑顔ではなくて、心からの自然な笑み。ドキンと胸が跳ねた。
 呪いとかはよく分からなかったけど、結果的に王様が元気になられて良かった。
心からそう思った。

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青猫かいり

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