異世界で逆ハーレムってアリなんですか?

 今日もいい天気だわ。
 庭の水撒きと朝摘みはトゥールくんに任せて、開店前の商品補充をしていた。
「メイナ、おはよう。開店前にすまない」
 ドアを開けてカイト様が入ってきた。
「いらっしゃいませ。大丈夫ですよ! 今日は何にしましょうか? あ、これからお仕事ならあまりゆっくりはできないですよね?」
 カイト様が騎士服を着ていたから、仕事前に寄ったのかと。
「メイナ、その、他の人が来る前に話がしたい。大事な話があるんだ!」
 カイト様がいつになく真剣な顔を見つめてきた。余程大事な話みたい。
「分かりました。えっと、椅子に座りますか?」
「いや、ここでいい。メイナ、俺は前から――」
 カイト様が何か言いかけた時、店のドアが開いた。
「へぇ。いい店じゃないか。足繁く通っているという噂は本当だったんだね」
 フードを目深に被った男の人が中に入ってきた。
 カイト様がビクッと体を震わせたかと思うと、勢いよく振り向いた。
「あぁ! ニッ」
 男性が口に人差し指を当てると、カイト様が黙った。
「いらっしゃいませ」
 取り敢えずお客さんに挨拶しなくては。
 カイト様の知り合いなのかな?
 男性は店内をキョロキョロ見回した後、フードを取った。
 サラサラの金髪に美しい青い瞳、二重瞼で切れ長の目に物腰は柔らかそうな印象を受けた。イケメンだけど、美しい男と言った方がしっくりくる。
 あれ? この人、どこかで見たような……。
「君は!」
 男性がつかつかと足早に近づいてきた。
 あ、思い出した! 王都に来てすぐ市場に寄った時にぶつかった男の人だ!
「ずっと探していたんだ。やっと会えた!」
 男性が私をぎゅっと抱きしめた。
 く、苦しい。
「あ、あの、ちょっと、離してください」
「ああ、すまなかったね。つい」
 男性は謝罪して離してくれた。
 よく知らない人だけど、ちょっとだけドキドキしてしまった。これだからイケメンは。
「あの、随分前のことですけど、市場でぶつかりましたよね?」
「そうだね、あの時は急いでいてすまなかったね。でもこうして会えてよかった。カイトのおかげかな」
 男性が微笑んだ。
 やっぱりカイト様の知り合いなのね。それなら例の物は盗品ではなさそうだわ。
「これ、お返しします」
 預かっていた宝石をアイテムボックスから取り出して、差し出した。
「あれ? 君が持っていたのか? それなら何故探し出せなかったんだ? 石に込めた私の魔力もそのままのようだし」
 男性が手のひらから石を受け取る。
「君、この石、どこに仕舞っていたのかな?」
 問われて答えに詰まり、思わずカイト様を見た。
「その方になら話しても大丈夫だ」
 カイト様が私の意図を読み取って答えた。
「アイテムボックスという特殊なスキルがありまして、その中に入れていました」
 かなり端折って説明したけど。
「なるほど、空間魔法で作られた異空間みたいなものか。それなら魔力が辿れなかったのも説明がつくね」
 納得してくれたみたいで良かった。
「君、ここの店主? 私の名前はニコラス。君の名は?」
「はい、店主のメイナ・カミナカといいます」
 カイト様の口ぶりから、カイト様よりも身分の高い方かもしれないので、スカートを少し持ち上げて淑女の挨拶をしてみた。
「カイト、邪魔して悪かったね。私の事は気にせずに買い物をしてくれ」
 ニコラス様がカイト様に話しかけた。
「あ、そうだ、カイト様、お話しの途中でしたね、それで――」
「あ、いや、その、……また今度にするよ。そうだ、ニコラス様に何か飲み物を。俺も同じ物でいいから」
 カイト様はそういうと、ニコラス様に話しかけて向かい合わせて椅子に座った。
「では、少々お待ちください」
 キッチンに行って、飲み物とお茶請けを用意してまた戻ってきた。
「お待たせしました。フルーツティとプリンです」
 ニコラス様から順番に置いた。
 ニコラス様は優雅にプリンを食べ始めた。
「美味しい。これはメイナの手作りかい?」
「ええ、このお店の商品はほとんどが手作りです。良かったら見ていって下さいね。ではごゆっくり」
 ちゃっかり営業、これ大事よね。
「ああ、後で見せてもらうよ。カイト、君はメイナとどういう関係なんだい?」
 ニコラス様がカイト様に尋ねた。
「いや、その、常連客の一人です。いい店ですからね。俺の他にも常連客いますから」
「そう。それだけ?」
 ニコラス様が探りを入れるような、少し意地悪そうな顔つきで言った。
「ニコラス様こそ、メイナを探していたなんて知りませんでしたよ。しかもご自分の魔力を込めた宝石を渡していたなんて」
 カイト様がじっとニコラス様を見た。
「まあね、誰にも話してなかったから。あの時は抜け出してお忍びだったからね」
 ニコラス様がにっこり笑って言った。
 やっぱりカイト様より立場が上の人みたいだわ。ということは、間違いなく貴族様よね、きっと。あの人のステータスを見れば一目瞭然なのは分かっているけど、人物のステータスは必要としない限りは見ないようにしているし、悪い人でないならそれ以上の確認は必要ないかなって。
 ドアが開いたので目をやると、ベレルさんとセドリックさんがやってきた。
「いらっしゃいませ」
「やあ、メイナ、今日も水羊羹がいいのう」
 ベレルさんは水羊羹が相当お気に入りらしい。
「はい、あ、今日も相席でお願いします」
「こちらは構わないのう」
「私はお任せで」
 いつものお任せ。今日は何にしようかな?
「かしこまりました。お待ちくださいね」
 キッチンに行こうとした時、
「あっ! ええっ!? ニコラス殿下!?」
 セドリックさんの驚いた声が聞こえて振り返ると、セドリックさんが後退って狼狽えていた。
 え? 今、殿下って言った? てことは、貴族どころか王族なの? もしかして本物の王子様なんじゃないの?
 ニコラス様とカイト様を見ると、ニコラス様はにこにこしているけど目は笑っていないし、カイト様は大きなため息を吐いていた。
「バレてしまったなら仕方がないね」
 ニコラス様はため息吐きながら私の前に来た。
「メイナ、黙っていてすまないね。私はニコラス・コルセルリア。身分はこの王国の第三王子にあたる。いずれは話すつもりだったのだけど、君には王子という肩書とは関係なく、一人の男として見て欲しかったんだ」
 ニコラス様が申し訳なさそうな、残念そうな顔で言った。
「どうかこれからもただの客として接してほしい」
 ニコラス様が私の手を握って言った。
 王子様なんて普通に話すのも恐れ多いわ。私はこの通り庶民だし。でも、今更態度を変えるのも変よね? 本人もそう言っているわけだし、他のお客さんと同じように接しても、不敬罪で捕まったりしないわよね? まあ王子様と言われても、日本育ちの私にはあまりピンと来ないけど。
「分かりました。その代わりに特別扱いはしませんからね」
 後で王子だから特別扱いしないで何か言われても困るから、最初が肝心よ。
「フフ。それでいい。私がそれを望んだのだから。でも君の特別な存在になったら別の意味で特別扱いしてもらえるのかな?」
 王子様がウィンクして言った。
 王子様と私が特別な関係になる訳ないじゃないですか。私を揶揄っていいらっしゃいますね、この王子様は! 絶対にこの人腹黒だわ。腹黒王子!
 私は心の中で悪態を叫んでしまった。

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青猫かいり

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