異世界で逆ハーレムってアリなんですか?

 オープン二日目。
 開店と同時にお客様がやってきた。
「いらっしゃいませ!」
 張り切って声を出し過ぎてしまった。
 ドン引きされてないといいけど……。
 よく見ると、騎士服を着ていた。
 隣の警備団の人かな?
「頭痛がするので、薬はありませんか?」
 よほど頭が痛いのか、右手で頭を押さえていた。少し顔色が悪そうだ。
 騎士さんのステータスを確認すると、持病の欄に片頭痛と書かれていた。
「はい、ありますよ。準備するので、こちらに座っていてください」
 少し声のトーンを落として椅子に座るように勧めると、見えないように頭痛薬をアイテムボックスから取り出した。
 座ってぐったりしている騎士さんの近くまで行って、テーブルに頭痛薬を置いた。
「こちらが頭痛薬になります。金額は銀貨一枚です」
 騎士さんは銀貨一枚を取り出して机に置いた。
「買います。ここで飲んでもいいですか?」
 騎士さんが青白い顔して言った。
「はい、どうぞ。お代いただきますね」
 テーブルに置かれた銀貨をもらうと、そのまま騎士さんを置いて台所に向かった。
 多分薬を飲んだ騎士さんはすぐには立ち上がれないはず。
 手早く準備してお店に戻った。
 騎士さんは薬を飲んだらしく、椅子に座ったままウトウトとしていた。
「騎士さん、頭痛は治まりましたか?」
 騎士さんの近くでそっと声をかけた。
「は、はいっ! あ、すみません。頭痛は治りました。こんなに早く治ったのは初めてです。あふぅ。何だか眠気が……」
 騎士さんがはっと気が付いたような顔をしたかと思ったら、欠伸して今にも眠りそうな感じだった。
「飲む前に説明してなくてすみません。薬の副作用です。この頭痛薬は服用すると少し眠くなるのです。良かったらこのハーブティを飲んでください」
 騎士さんの目の前にハーブティを差し出した。
「ありがとうございます。いただきます」
 騎士さんがカップを手に取り、ごくごくと飲み干した。
「あれ? 眠気がなくなって頭がスッキリしてきた。頭痛薬もハーブティもすごい。ハーブティのお代はいくらですか?」
 騎士さんがビックリしながら言った。
「いえ、これはサービスです。副作用の説明をしてなかったので、お詫びです」
「いや、銀貨一枚なんて破格な値段でハーブティまで頂いてしまっては……」
 サービスと言っても納得しなさそうだわ。
「そうですか――では、銅貨一枚とか?」
 つい疑問形で応えてしまった。
「それじゃあ安すぎますよ。せめて銅貨三枚から五枚くらいは取らないと!」
 騎士さんに注意されてしまった。
 材料費を考えたら銅貨一枚でもお釣りがくるんだけど。
「じゃあ銅貨三枚で!」
 苦笑いして言った。
「はい、銅貨三枚ですね。また来ます」
 騎士さんはそう言ってお金をテーブルに置いて帰っていった。
「ありがとうございました!」
 彼と入れ違いにまた別の騎士さんがやってきた。
「こんにちは。傷薬ありますか?」
「はい、銀貨一枚と銅貨五枚になります」
 お代をもらうと、傷薬と渡した。
「飲み薬ですよね?」
 騎士さんが尋ねた。
「ちょっとした傷なら患部に数滴垂らすだけで大丈夫ですが、傷が深い場合や範囲が広い場合は飲み干してください」
「わかりました」
 こんな調子で何人もの騎士さんが入れ替わりでやってきた。
 やっと途切れて一息ついたところ。
「こんにちはぁ。いいお店ねぇ。納品にきたわよぉ」
 バルーガさんが大量の薬瓶が入った箱を持ってやってきた。
「バルーガさんが来てくれたんですか? ありがとうございます」
 バルーガさんが箱をカウンターに置いた。
「注文の品はこれで全部よ。確認したら支払いお願いねぇ」
 箱の中身を確認した。
「はい、確かに受け取りました。お代です」
 予め用意していた代金の入った袋を渡した。「あらぁ。この袋、可愛いわねぇ。この袋はもらっていいのかしら? こんな袋みたことないわぁ。どこで売っているのかしら?」
 バルーガさんが巾着袋を眺めて言った。
「それは私の手作りです。一応小物コーナーで売っていますが、それはバルーガさんにそのまま渡すつもりでしたので、お納め下さい」
「ありがとう。それと、火傷の薬ってあるかしら? ちょっとドジっちゃって、指先を火傷しちゃったのよねぇ」
 バルーガさんが火傷した指先を見せながら苦笑いして言った。
「ありますよ。ちょっと見せて下さい」
 バルーガさんの指を手に取り、じっと見ると指先が赤くなっていて、水膨れが出来ていた。
 こっそり用意した火傷の薬を第一関節から先の部分に数滴かけた。
 赤味と水膨れが消えた。
「わぁ。すごいわぁ! もう痛くないし、綺麗になったわぁ。メイナは腕がいいのねぇ」
 バルーガさんが感心しながら言った。
「治って良かったです。他に火傷した場所はありますか?」
 褒めてもらえて単純に嬉しかった。
「いいえ、指先だけよ。ありがとう。お代はいくらかしら?」
「いえ、今回はお代いりません。薬瓶を特急で作ってもらったし、格安にしてもらったお礼です」
「それはダメよ。気持ちはありがたいけど、ちゃんと支払わせて。うちは仕事柄、火傷する人が多いからその薬もらって帰るわぁ。予備にもう一本欲しいし」
 バルーガさんがウィンクして言った。
「分かりました。二本で銀貨三枚になります。今用意するので、座って待っていて下さい」
 そう言って使いかけの火傷の薬をテーブルに置くと、店から台所に向かった。
 アイテムボックスに用意して置いた水羊羹と緑茶をお盆に乗せてすぐにお店に戻った。
「お待たせしました」
 まず火傷の薬を追加で一本置き、その後にお盆を置いた。
「これは食べ物かしら?」
 バルーガさんが怪訝そうな顔で水羊羹を見つめた。
「はい、水羊羹と緑茶です。試飲と試食です。良かったら感想を聞かせてもらえますか?」
 サービスというとまたお代の話になりそうというのもあるけど、色々な人の意見を聞くのもいいかと思って。
「それなら遠慮なく頂くわぁ。どちらも聞いた事ない名前ねぇ」
 バルーガさんが水羊羹をゆっくり口に運んだ。
「甘いお菓子みたい? 色から味が想像できなかったけど、美味しいわぁ」
 バルーガさんは余程気に入ったのか、一気に全部食べてしまった。
 その後、緑茶を一口飲んだかと思ったら、次はごくごくっと飲み込んだ。
「ふぅ。このお菓子とお茶の相性抜群ねぇ。甘さ控えめなところもいいわ。気に入ったわぁ」
 バルーガさんが満面の笑みを浮かべて言った。
「お口に合ったなら良かったです」
 和菓子と緑茶が受け入れてもらえたのが嬉しい。
「ねぇ、ここだけの話、腕のいいメイナなら惚れ薬も作れたりしない? 作ったら私だけには売ってちょーだい。何なら媚薬でもいいわよぉ」
 バルーガさんが妖しい顔で言った。
「び、媚薬!? とんでもないっ! そんなの作れても作りませんよ!!」
 顔が真っ赤になったのが自分でも分かった。
「ふふふ。ウブねぇ。ま、メイナには必要ないかもねぇ。美人だし、カイル様もいるしねぇ」
 バルーガさんがニヤニヤして言った。
「ち、違いますよ! カイルさんには助けてもらっただけでっ!」
「あらぁ、顔が真っ赤よぉ。カ・ワ・イ・イ」
 バルーガさんが人差し指を立ててウィンクしながら言った。
「もうっ、バルーガさん、揶揄わないでくださいよ!」
 ちょっと頬を膨らしてみた。
「ふふふ。もうちょっとおしゃべりしていたかったけど、そろそろ工房に戻らなきゃいけないから、お代ここに置いておくわね。また来るわぁ」
 バルーガさんは席を立つと、後ろ手に手を振ってお店を出て行った。
 バルーガさんには揶揄われてばかりな気がする。
 でも、バルーガさんの恋のお相手って、どっちなんだろう? 男性なのか女性なのか。
 気になるけど本人に直接聞けないわ。
 バルーガさんと入れ違いに、今度は職人のドルバルさんがやってきた。
「メイナ、シャワーを作ってきたんだが」
 ドルバルさんが心配そうな顔をして言った。
「じゃあ、風呂場に取り付けお願いします」
 一緒に風呂場まで行って、一緒に作業することにした。
 スイッチを押すと温水が出るものと、冷水が出る魔石を予め私の方で用意しておいた。
あとはドルバルさんの作ってくれた部品とつなぎ合わせて動作確認するだけ。
 思ったより短時間でシャワーが完成した。
 スイッチを押すと鉄製のノズルから、温水が出てきた。
「これはすごいな!」
 ドルバルさんが思わず感嘆の声を漏らした。
作ったのはドルバルさんだけど、動作確認はここで初めてしたみたいだ。
「さすが、ドルバルさんですね。これでお風呂場が快適になります」
 これで髪も体も洗いやすくなったわ。
「いや、発明したメイナがすごいぞ。平民でお風呂がある家はそうそう少ない。どこでこんな物を思い付くんだ?」
 ドルバルさんが腕を組んで唸った。
「偶然です。そう、偶然、こういう物があったらいいな、とそういう思い付きです。ハイ」
 笑って誤魔化した。
 水量や温度の調節はできないから、簡易シャワーって感じだけど、これで十分だわ。
 ドルバルさんの腕前にめいいっぱい感謝した。

読んでいただきありがとうございました。
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青猫かいり

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