異世界で逆ハーレムってアリなんですか?

 住む家も決まった(まだ引き渡し前だけど)事だし、次は仕事探しよね。
 何か仕事を探す参考になるかと思って、自分のステータスを確認したら、スキルの項目にたくさん書かれていた。多分、あっちの世界で学んだ事や経験した事もスキルとして認識されているんじゃないかな。
 でもどうやって活かせばいいのか。
 取り敢えず、お金をゲットしないことには生活できなくなるから何とかしないとね。
 それで冒険者ギルドにやってきた。
 王都の冒険者ギルドは、前の街よりも大きい建物で、受付と同じフロアに待合いや休憩所も兼ねたテーブルと椅子のセットがあって、食事やお酒を頼めるカウンターが隣接していた。隣接した隣の建物には、訓練所など冒険者用の施設もあるらしい。
 王都ではどのような依頼があるのか、掲示板を見てみた。
 魔物退治とか絶対無理。安全で簡単な依頼があればいいのだけど。
 一番下のFランクが受けられる仕事は、やはり薬草などの採集や、畑の収穫の手伝いなど、比較的安全なものが多かった。
 薬草の採集、やってみようかな? あ、これなら依頼達成の報酬が他の薬草採集より低いから特に簡単で危険度もないかも。
 掲示板から依頼票を剥がし、受付で尋ねた。
「あの、このルクト草採集の依頼を受けたいのですが、この薬草って、どこで取れますか?」
「はい、この薬草はパルニ森の中にたくさん生えていると思います」
 受付のお姉さんが笑顔で答えた。
「あの、王都にきたばかりで地理に詳しくないのですが――」
「それでしたら、王都とその周辺の地図を銅貨三枚で販売しておりますので、良かったらご購入ください」
「あ、じゃあ、地図買います」
 そう言って、代金を支払った。
「では依頼受注処理いたしますね」
「はい、お願いします」
 お姉さんから地図を受け取ると、受付を後にした。

 地図を頼りに、パルニ森までやってきた。少し遠かったけど、馬車を借りるなんて贅沢はできないから、歩いてきた。地球とは重力が異なるせいか、そんなに疲れないのが幸いかな。
 あ! しまった。ルクト草ってどんな草?
 下調べするのを忘れたわ!
 たくさん生えているというから、取り敢えず手当たり次第、この辺りの草のステータスを調べるしかないわね。
「ルクト草、ルクト草――、あ、この草、希少価値の高い草だって! 何々、万能薬のポーションの素材の一つ。今回の採集対象ではないけど、取っておこうかな。あ、これも違うけど、薬草みたい! あ、こっちも薬草、取っとこう! あ、あった、ルクト草! 確か三十本で良かったみたいだけど、余分に取っておこう。うん。何かに使えるかもしれないし、この辺りの薬草を全種類一本ずつ取っておこうかな。折角だから根から綺麗に掘り起こしてっと。で、必要な分以外はアイテムボックスに入れておこうかな」
 夢中になって薬草を一通り取り終えて辺りを見渡すと、森の奥深くまで来ていたようだった。
 来た道を帰ろうとした時、三人の男達がニヤニヤしながら近づいてきた。
 何か嫌な予感がする。
 足早にその場を離れようとしたが遅かった。
「よぉ、お嬢ちゃん、一人かい?」
「まだ子供だが、中々の上物じゃねえか」
「俺はガキなんぞ興味はねえな。コイツの姉とかならお願いしたいところだが」
 見たところ、冒険者のような服装だが、目つきが気持ち悪い。
 私がジリジリと後退ると、背中に木が当たった。
 しまった! 背後にはもう逃げ道がない。
 薬草採集に来ただけなのに、何でこんなことに?
 どう切り抜けるか考えても思いつかない。
いざとなったら急所を蹴り上げるしかない。
「怯える顔も中々そそるなぁ。悪いようにはしないから、お兄さん達と一緒に来ないか」
「お前、本当にガキ好きだよなぁ」
「俺も子供には興味なかったが、こんなに可愛いならアリかもなぁ」
 男達が獲物をそっと仕留めるかのようにジワジワと迫ってきた。
 こんな場面に遭遇するのは初めてで、恐怖のあまりに声が出ない。
 足が震えて動かない。
 男の一人が私の腕を掴んだ。
「――! さ、触わらないで!」
 やっとの事で声を絞り出した。
「声もかわいいなぁ。ん? 近くで見ると増々好みだぜ。ちょっと付き合い――」
「そこで何をしている!」
 少し離れたところから、男が大きな声で威嚇するような声を発した。
 男達がビックリして振り返る。
 声の主はすごい勢いで走ってきて、私と男達の間に立ち、私を背に隠してくれた。そして私の腕を掴んでいる男の腕を掴み上げた。
「いてっ! おい、てめぇ! 何のつもりだ?」
 腕を掴まれて形勢逆転した男が怒りを顕わにして言った。
「何か勘違いしていないか? 俺達はこのお嬢さんをご飯に誘っていただけだぜ?」
 別の男がお道化た仕草で適当な言い訳をした。
 救世主が男の腕を離すと、男は腕を擦りながら少し離れて距離を取った。他の二人もそれに合わせて下がった。
「彼女は嫌がっていたように見受けられるが?」
「うるせぇ! お前には関係ねぇ!」
「――離れて! 早く!」
 救世主が私に言った。
 私の腕を掴んでいた男が叫びながら、救世主に殴りかかろうとしているのが見えた。
 他の二人も遅れて殴りかかろうとしていた。
 私は転びそうになりながらも、急いで後ろの木よりも後ろに逃げた。
 危ない! 彼が殴られる!
 そう思った瞬間、彼は殴られる前に男達を躱していた。
 誰か警察! じゃなかった、応援を呼んで来た方が良いのかもしれないけど、今からでは間に合わない。
 彼の強さは分からないけど、素手とはいえ、三対一ならせめて武器があった方がいいよね。
 周りを見渡したが、人もいないし、武器になりそうな物も見当たらなかった。
 細い枝が落ちているだけ。
 アイテムボックスに何かなかったかな?
 あ、すっかり忘れていた! ベレルさんに勧められて護身用に買った剣がいくつかあったんだった。人相手に鉄の剣だと危ないから、
ここは木剣の方がいいかな?
 アイテムボックスから取り敢えず木の剣を出してみた。
 相手が素手なら木剣で十分かな。
 まだ危機を乗り越えた訳ではないけど、武器を持っているせいか、恐怖心はどこかへ飛んでいってしまった。
「あの――」
「余裕ぶっこいているのもここまでだぜ」
 救世主に声をかけようとしたら、一人の男が短剣を取り出した。
 三対一でも卑怯なのに、短剣なんて、卑怯の極みだわ!
「救世主さん! 受け取ってくださぁい!」
 大声で叫びながら、一か八かで彼に向かって木剣を投げた。
 彼は驚きながらも、宙を舞う木剣をキャッチすると、男達に向かって構えた。
「あのー、鉄の剣とかもありますけどぉ!」
 彼に向かって大声で伝えた。
「ありがたい! この剣で大丈夫だ!」
 彼も大声で答えた。男達に応戦しながら。
 男達は木剣を鼻で笑った。
 素手の二人が同時に殴り掛かった。
「うっ」
 彼は木剣で素早く男達のみぞおちを突き、ぐらついたところで後頭部を叩いた。
 二人は地面に倒れ込んで動かなくなった。
 気絶しているように見えた。
「ちっ!」
 残った男が舌打ちしながら短剣で彼を突き刺そうとした。
 彼は木剣で彼の手を叩き、短剣を落とさせた。
 男が慌てて短剣を拾おうとしたが、彼の突きの方が速かった。そして、また気絶させたようだ。
「あの、もう終わりました?」
 ゆっくり近づいて、小さめな声で彼に尋ねた。
「ああ、三人とも気絶しているから大丈夫だ」
「コレ、使って下さい」
 アイテムボックスから出しておいたロープを差し出した。
「木剣といい、準備がいいな」
 彼はロープを受け取ると、男達を拘束し始めた。
 洗濯物を干すためのロープ何だけどね、ソレ。こんなところで別の役に立つとは思わなかったわ。
 拘束し終えた彼が私に近づいてきた。
「怪我はないか? 大丈夫か? 木剣をありがとう。助かった」
 彼が木剣を私に返してきた。
 木剣を受け取ると、私は木剣を抱き抱えたまま、ペタンとその場に座り込んでしまった。
 もう危険は去ったんだ。そう思ったら、安心して力が抜けたみたいだ。
「大丈夫か? どこか痛いのか?」
 彼が慌てて私の顔を覗き込んだ。
「――!」
 救世主と目が合った。
 これまた大層なイケメンだった。
 うん、男前。漆黒の髪に琥珀色の素敵な瞳。
 精悍な顔つきで思わず見惚れてしまった。
「――泣かないでくれ」
 絞り出したような声だった。
 言われて初めて自分が泣いていることに気が付いた。
 慌てて涙を服の袖で拭った。
「あ、すみません。安心したら力が抜けてしまっただけです。もう大丈夫です。助けてくださってありがとうございました」
 座ったままお礼を言うのも何か違うと思って、慌てて立ち上がろうとした。
 まだ完全には力が入らなかったらしい。途中でよろけて転びそうになった。
「おっと」
 彼のたくましい腕に支えられた。
「本当に大丈夫か? 怯えていたと思ったら、急に元気になって大声出して木剣投げてくるわ、終わった途端また座り込んで泣き出したかと思えば、また元気になって立ち上がってよろけて、何とも忙しいお嬢さんだな」
 彼が思い出したように笑った。笑顔が眩しい。つられて私も笑みがこぼれた。
 やっと一人で立てたところで、改めてお礼を伝えた。
「助けていただいて、本当にありがとうございました」
 深々とお辞儀をした。
「礼には及ばん。これでも王国の騎士だ。国民を守るのは騎士の役目。それより、王都でこのような怖い目に合わせてしまい、すまなかった。騎士の一人としてお詫びする」
 彼が頭を下げた。
「そんな! 頭を上げてください。王都は他の街に比べて治安が良いと聞いています。今回はたままた運が悪かっただけって思っています」
 彼のせいではないのに。
 頭を下げられて困ってしまった。
「この森も含めて王都の警備を強化すると約束する」
 彼の瞳は真剣そのものだった。
 真面目な人なのね。
「あ、あの、私はメイナ・カミナカと申します。貴方のお名前を教えていただけますか」
 突然名前を尋ねて彼が迷惑がっていないか、ちらっと顔を盗み見た。
「ああ、そう言えば、名乗っていなかったな。俺はカイト・アクフェルトだ。今は王城勤めだから、もし困ったことがあったら、王城の門番に伝言してくれ。俺に出来ることなら力になろう」
 迷惑がられていないようでほっとした。
 彼の笑顔を見ると元気が出てきそうだ。
 王城勤めってことは、騎士の中でも偉い人なのかな?
「分かりました。もし何かあったらその時は相談させてもらいますね」
「まぁ何もないのが一番だけどな。それはそうと、これから家に帰るのか? 迷惑でなければ送らせてほしい」
 それは願ってもないことだった。
 流石に今さっきの事件で、ちょっと一人で森の中を歩きたくない気分だったし。
「ありがとうございます。えっと、今から冒険者ギルドに薬草を届けようと思っているので、そこまで送っていただけるなら安心です。あ、でもあの人達をそのままにしておいて大丈夫ですか?」
「縛ってあるし、念の為木に括りつけてあるから、逃げられないし大丈夫だ。では冒険者ギルドまで行こう」
「はい。宜しくお願いします」
 彼と二人、歩き始めた。
「メイナは冒険者なのか?」
「訳あって冒険者登録しましたけど、向いてないみたいです。商業ギルドにも登録していますので、商売の方で頑張ろうかと考えているところです」
 思わず苦笑いしてしまった。
 初めての薬草採集でコレじゃあ先が思いやられるもの。
「そうか、冒険者は危険が付き物だからな。他にできる仕事があるならその方がいいかもしれないな」
 少し考えながら彼が言った。
 言い方はぶっきらぼうだけど、優しい人だと思う。
「あの、王都ではどのような商品が売れていますか? アクフェルト様はどのような物をよく買われますか? どのような物が欲しいですか?」
 ちょっと食いつき気味に聞いてみた。
 ドン引きされてなければいいけど。
「――カイトでいい。んー、そうだな、流行には詳しくないから、その手の事には疎くてな。騎士の立場から言うと、怪我や病気の時に良く効く薬があるとありがたいな。治癒や回復魔法を使える魔導士もいるが、魔力には限りがあるから、たくさんあると助かる」
 カイト様が一生懸命考えてくれたみたいだ。
 なるほど、薬ね。ゲームとかでよくあるポーションとかかな? 確かに薬なら、騎士様だけじゃなくて、一般市民も必要になるだろうし、医者がいないこの世界なら、薬は必須のアイテムかもしれない。
 でもどうやって作るんだろう? 私でも作れるのかな? 後で商業ギルドにも行ってみようかな。
「カイト様、ありがとうございます。とても参考になりました。早速冒険者ギルドに薬草を――」
「カイト団長!」
 話の途中で、大きな声が聞こえてきた。
 声の主と思われる男性が走ってこちらに向かっている。その後ろから連れの男性も足早に近づいてくる。
「団長が女性連れなんて珍しいっスね! 妹さんっスか? もしかして彼女っスか?」
 ノリが男子高校生みたいで、元気がありあまってそうな感じだ。
「あ、バカ、ストレートに聞くんじゃねぇよ」
 連れの男性が頭を叩いた。言動から先輩風な印象を受けた。
「お前ら、第一声がそれか?」
 カイト様が呆れたように言った。
「あ、お疲れ様っス。珍しい光景だったんで、つい」
 てへペロって顔だ。
「お疲れ様です」
 よく見ると、二人とも騎士のような恰好をしている。部下かな?
「ちょうど良かった。お前ら、パルニ森の中腹辺りに三人の男達を拘束してあるから、回収して牢屋に放り込んでおけ」
「え? そいつら何やったんスか?」
「いいから、行くぞ!」
 先輩風の男性が元気な男性を引きずっていく。
 すれ違い様、二人が会釈していく。
「団長が仕事以外で女性と歩いているどころか、笑って話しているのを初めて見ました」
 先輩風の男が、一番近くなったところで私に聞こえるくらいの大きさで呟いた。

読んでいただきありがとうございました。
宜しければご感想など頂ければ嬉しいです。

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