異世界で逆ハーレムってアリなんですか?

 市場から馬車で移動し、ベレルさんに不動産屋さんまで連れてきてもらった。
 馬車を降りると、ベネフルク商会という看板の建物の前だった。続いてベレルさんが降りてきた。
 お礼を言おうとしたら、先に言われた。
「ワシも付き合うかのう。ここの商会とは取引があっての、少しは融通もきくだろうて」
「え、でも――」
「ワシのお節介に付き合ってくれんかのう」
 ベレルさんがウィンクして言ったと思ったら、先導して建物の中に入っていく。その後に私も続いた。

 不動産屋さんとベレルさんにも付き添ってもらって、最後の候補の家にやって来た。
 ここに来る前に、何軒か下宿先や、賃貸の物件を案内してもらったのだが、どれもピンと来なかった。安くしてくれるというので、購入物件も見せてもらうことになったのだ。
 1メートルぐらいの高さの木の柵が敷地を囲っていて、入り口は表札とかもなく、門というか、両開きの木製の扉が付いているだけ。
 業者さんに続いて門の中に入った。
 え? ここなの? 庭広い! というか、庭? 畑でもやれそうなぐらい広くない? それに、家。確かに平屋の一軒家には違いないけど、大き過ぎない? 何部屋あるの? 小屋みたいな離れもあるの? 一人で住むには広くない? 前の持ち主は一体何人で住んでいたのだろうか?
 一人で住むには怖い広さなんですけど!
 ビックリしすぎて唖然とした。
「あの、私一人で住むところを探しているのですが……」
「ご両親もいらっしゃらないとお聞きしましたので、嫁ぐならともかく、当主となられる可能性があるお客様は、一人暮らしでもこのぐらいの大きさはあって困るものでもないですよ。どうぞ、中もご覧ください」
 不動産屋さんはニッコリ営業スマイルで玄関のドアを開けて、中に入るように促してきた。
 当主だと大きな家が必要ってこと? この世界の事はまだよく分からないけど、これが普通なのかな?
 とにかく家の中を見るだけ見てみよう。
 促されるまま家の中へ入った。
 家は基本、石造りと木の素材で作られているが、この世界では一般的のようだ。街でもそういう建物ばかりだった。
 思っていた玄関とは違い、靴箱とかがあるわけでもなく、無駄に一部屋分の空間があった。
 不動産屋さんが靴のまま奥に進んだ。そうか、日本みたいに靴を脱ぐ習慣はないのか。そこから廊下があって、左右にいつくか部屋の扉があった。
 靴のまま進んだ。そうか、日本みたいに靴を脱ぐ習慣はないのね。
 応接間みたいな部屋、書斎みたいな部屋、料理人でも雇っていたのかと思うような立派なキッチン、ダイニング、そして何かを作る作業場のような部屋、奥にベッドのある寝室がたくさんあった。
 大家族だったのかな?
 シャワーはないけど、お風呂として使っていたような部屋もあった。
 外には、物置に使えそうな小屋や何かを作るための工房のような小屋がいくつかあった。
 そして、大きな木がある。まだ両親が生きていた頃に住んでいた家の庭にもナギいう名の大樹があって、それに似ている気がする。
 この木のせいか、ここに住んでもいいかな、と思ってしまった。
 でも、この物件、すごく高いのでは? 一人で住むには贅沢過ぎるし、貧乏人には贅沢すぎる気がする。
「あの、やっぱり一人で住むには広過ぎですし、第一、高そうですし――」
 何とかお断りを入れようとした。
「販売価格は白金貨五十枚、と言いたいところですが、ベレルさんのご紹介ですので、白金貨三十五枚で良いですよ」
 ということは、三百五十万円ぐらい? 安くない? この敷地に家具付きで? 何か訳アリ? それともこれが普通なの? それでも予算オーバーだけど。
 ちらっとベレルさんを見た。
 ベレルさんは家具やら部屋をじっくり観察しているようだった。
「あの、前はどのような方が住まわれていたのですか?」
 気になって訊ねた。
「前の持ち主は、裕福な商人の方でした。しかし、急遽家族を連れて田舎に帰ることになったということで、一部家具付きで手放されました」
 訳アリという程のことでもないけど、急いで売る為に、格安で契約したというところかな?
「もう少し安くならんかのう。少ないとはいえ家具付きというのは使い勝手が合わないと無用のものとなるでのぅ。それに中心街からはかなり遠いから、不便だしのう。生活に必要な魔導石もトイレ以外は外して持って行ったみたいだしのう」
 私の代わりにベレルさんが値切ってくれている。
 そうだ。この世界は、科学技術が発達していない代わりに、魔法によって生活に必要な技術を補っているらしい。魔導石という、魔力と魔法が込められた石によって、水道の代わりに蛇口から水が出てきたり、コンロから火が出たりする仕組みになっているらしい。そういう物を総称して魔導道具と呼び、魔法が仕えない人でも魔導道具のお陰で生活できるし、魔法が使えても、魔力が枯渇すると最悪死んだりするらしいので、生活には魔導道具やその元となる魔導石が欠かせないらしい。
 まだ買うと決めていないのだけど、このまま値段交渉が続けば、買うことになるのかな? どうしよう? でも、広いのを除けば、家自体は悪くなさそう。魔導石を自分で用意すればもっと安くなるかな?
「確かに王都の中心からはかなり離れていますが、王都第三警備団の常駐詰所と宿舎が隣の敷地にありまして、治安はいいのですよ」
 不動産屋さんが汗を拭きながら、ベレルさんに負けずに応戦する。
「しかしのう、孫娘のように可愛がっておるメイナの事だしのう、もうちょっと安いとワシの顔も立つのだがのう」
 ベレルさんが業者さんをちらっと見た。
 不動産屋さんは大きなため息を吐いた。
「ベレルさんには敵いませんね。分かりました。魔導石をご自分で用意されるということであれば、白金貨二十枚でどうでしょうか」
「メイナ、どうかのう? 足りなければ、ワシが出してもよいが」
 ベレルさんが私を見た。
 まだどのような商売をするかも決めていないし、設備として考えるなら、広い方が何かと都合がよいかもしれない。治安が良いなら尚更だ。お金を支払っても、まだ貯金はある。
「あの、お金は足ります。魔導石も自分で用意します。ただ、一つ気になることがありまして。私の故郷では、家の中では靴を脱いで生活する習慣があります。ですから、家中の床を新しくするとかできるのでしょうか?」
 やはり靴のまま生活することはできない。これだけは譲れない。できれば、畳も欲しいけど、そこまでは無理よね。
「靴を脱ぐ? あまり聞かない習慣だのぅ。だが、生活する上では大事なことだのぅ」
 ベレルさんが頷いている。
「それでしたら、職人に頼めば何とかなると思いますよ。王都の職人は腕のいい者がたくさんおりますから。ただ、お値段の方は高くなりますが……」
 そうよね、高くなるわよね。それならお金貯めてから直すしかないかな。できれば生活が安定するまでは、貯金でやりくりしなくてはならないのだから、贅沢はできない。
「分かりました。この物件、買わせて下さい。ただ、床の件は、今回は諦めますので、このままで大丈夫ですが、お風呂とか改装したい部屋もありますので、腕の良い職人さんを紹介していただけますか?」
 これで住むところは決まった。後は気になるところを改装して、住み心地良くしようっと。それまではしばらく宿暮らしね。
「お買い上げありがとうございます。引き渡しは明後日、その際に土地家屋の売買契約書をお渡ししますので、代金をお支払い願います。職人についてもその時にご紹介させていただきますね」
 不動産屋さんが満面の営業スマイルで答えた。

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青猫かいり

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