うわぁ、すごい賑わいだわ!
ベレルさんの馬車に同行させてもらって、王都にやってきた。前の街もこの国では大きな都市だと聞いたけど、王都は桁違いに広い。それ故に、行き交う馬車や人も多い。
王都の外壁は高く、入る門も厳重な警備だった気がする。
前回とは違い、馬車の中から商業ギルドカードを提示するだけで良かったのだけど、ベレルさんの同行者ということですんなり入れた気がした。ベレルさんには感謝だわ。
「メイナ、王都には着いたが、お前さんはこれからどうするつもりかの? 良かったらワシの商会で働かないか? 住み込みで働くことも出来るしのぅ」
馬車の窓から頭を出して辺りを見回していた私に、ベレルさんが声をかけてきた。
「ありがたいお申し出ですが、これ以上ご迷惑をおかけするわけにはまいりません。切羽詰まったらお願いすることもあるかもしれませんが、まずは自分の力で頑張ってみようと思います」
頭を下げて丁重にお断りした。
ここまで随分助けてもらったから、これ以上頼るのは筋違いかと思う。本当に、本当にありがたい申し出だから、お願いしたいところなのだけど、自分でどこまで出来るのかやってみたいという気持ちもある。
「そうかそうか、感心だのぅ。だが、遠慮はいらんよ。何かあったらダムラトリー商会を訪ねてくるのだよ。その時はこのベレルが必ず力になるからのう」
ベレルさんは断りに気分を害した風もなく、笑顔で言った。
「ありがとうございます。初めて出会った時からずっとお世話になりっぱなしで、今はまだお返しすることもできませんが、必ずお礼をさせていただきます」
見ず知らずの私にここまで親切にしてくれて、とても感謝している。気持ちだけでも伝えておきたかった。
「気にせんでおくれ。ワシが好きでやっていることだからのう。こんな爺さんと一緒に旅してくれて、楽しかったわい」
ベレルさんが優しい顔して笑った。本当のお祖父さんといるような気さえしてくる。
「重ね重ね申し訳ないのですが、あの、できれば、先に住むところを決めたいので、不動産屋があればそこで降ろして頂きたいのですが」
「うむ、それなら任せなさい。ただ、その前に市場に寄ってもよいかのう」
「はい、ベレルさんの用事が終わった後で構わないので、宜しくお願いします」
王都の地図があれば、途中で下してもらっても良かったのだけど、王都の市場なら私も行ってみたいので、ちょうど良かったわ。
「そうかそうか、では初めに市場に行くかのう」
ベレルさんはそう言うと、御者に何かを伝えた。
しばらくしたところで、馬車が止まった。
御者が馬車の扉を開けて私が降りるのをサポートしてくれた。続いてベレルさんも降りた。
前の市場とは比べものにならない程の広さで、露店や屋台がズラリと並んでいた。行き交う人込みもすごい。まるでお祭りの屋台通りみたいだ。気を付けないと迷子になりそう。
「ワシは知り合いの店に行くが、付いてくるかの?」
「あ、いえ、この近くを少し見て回ってみたいと思います」
「そうか、好きなだけ見るがよいのう。そんなに時間はかからんと思うが、馬車を待たせておくから、先に戻ってきたら中で待っていなさるがよいのう。ではまた後でのう」
ベレルさんはそう言って、人込みの中へと歩いていった。
見送った後、私も人込みの中を歩き始めた。
前の街の市場と同じような店もあるけど、王都の方が売り物など充実していて、種類も多そうだ。
季節的には日本の春に近いと思っていたが、市場は人の熱気で少し熱く感じる。
喉が渇いてきたので、屋台で売っていたルルの実というジュースを買ってみた。
色は淡いピンクで美味しそうではあるが、恐る恐る口を付けてみた。
あ、意外と美味しい! 桃とみかんを混ぜたような、自然な甘みとほんのり酸味があって、スッキリした味わいで飲みやすい。もう少し冷えていたら、もっと美味しい気がする。でもこれで銅貨一枚なら文句なしだわ。
他にも何かないかなぁとお店を見落とさないようにとキョロキョロしていた時だった。
ドン――!!
身体に何かがぶつかった瞬間、尻餅をついていた。
「お嬢さん、大丈夫ですか? 急いでいたとはいえ、申し訳なかった。怪我はないかい?」
ぶつかった主と思われる男の人が少し驚いたような顔を一瞬見せた後、心配そうに私に向かって手を差し出してきた。
見上げて声の主の顔を見ると、今までに会ったことがない、イケメンだった。フードを目深にかぶっているせいで、髪の色はよくわからないけど、とても美しい青い瞳で、王子様と言われても納得できるような麗しい顔立ちをしている。物腰は柔らかそうな雰囲気だけど、二重瞼で切れ長の目がとても印象的だわ。
出された手に自分の手を重ねると、彼が手を掴み、優しく立ち上がらせてくれた。
「ありがとうございます。怪我はありません。こちらこそ、余所見をしておりまして、申し訳ありません」
彼に向かって、頭を下げて詫びた。
「それなら良かった。君は王都に来たばかりなのかな? 君の――」
彼は言葉の途中で、はっとしたような顔をして、辺りを見渡した。
「おい、居たか? 早く探せ!」
少し離れたところで大きな声がした。数人の男が誰かを探しているようだった。
「すまない、これを持っていてくれ」
彼は私の手に何かを握らせると、振り返らずに下を向きながら、早足で去っていった。
訳が分からないまま、ぼんやりと彼を見送った。
さっきの男達に追われていたのって、あの人? まさか犯罪者とか? 私、何渡されたの? 犯罪とかに巻き込まれてないよね?
不安になって、人込みをかき分けるかのようにして、急いで馬車のところまで戻ってきた。
御者に確認しところ、ベレルさんはまだ戻ってきていなかった。
すぐさま馬車の中に入れてもらった。
ふう。これでゆっくり確認できるわ。
握らされた手のひらを開いてみた。
わぁ、綺麗な青い石! 彼の瞳のようだわ。宝石? 完全な球体ではないけど、丸く加工してあるみたい。え? これ、盗品とかじゃないわよね?
ますます不安になって、取り敢えず、石のステータスを確認してみた。
【天然石。サファイア。加工された物。魔力が込められているが、魔法は付与されていない】
ふむふむ。サファイアなのね、ってやっぱり宝石じゃないの! 何故これを会ったばかりの私に渡したのかさっぱり分からない。捕まったら窃盗の証拠になるから? 魔力が込められているのに、魔法付与ではないってどういうことだろう?
持ち主は分からないし、捨てる訳にもいかないから、取り敢えずアイテムボックスに隠しておこう。アイテムボックスは異空間みたいなものだから、誰でも見つからないだろうし。そして今度会うことがあれば、その時に返そう。
ベレルさんが戻ってこない内にと、サファイアを布に包み大事にアイテムボックスにしまった。
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