異世界で逆ハーレムってアリなんですか?

 昨日は、遅めの昼食を食べた後、ベレルさんに付き合ってもらって、荷物を入れる鞄と裁縫セットと綿とたくさんの布を買いに行った。
 部屋に戻ると、さっそく下着と、キュロットに近いものを作った。何とか形にはなったけど、本職のような出来栄えにはならなかった。
 荷物用の鞄とは別に、持ち歩き用の鞄を探したけど、希望の物がなかったので、紐と布で簡易のポシェットのような小さい肩掛け鞄を作った。これでポケットからではなくて、鞄からお金を取り出しているように見えるはずだわ。
 作成後、疲れて部屋で横になったらそのまま寝てしまったらしい。起きたら朝日が昇っていた。
 突然異世界にきてたくさん歩いたのもあるけど、不審者扱いされないようにと極度に緊張していたのもあったと思う。
 ベレルさんのように優しい人に出会えたのは幸運だった。でもいつまでも、頼ってばかりはいられない。早くこの世界、国の知識を得て、一人でも生活できるようにならなくては。
 ――コンコンコン。ドアを軽く叩く音が聞こえてきた。
「はい」
「ベレルだが、朝食を一緒にどうかのう」
 音の主はベレルさんだった。
「はい、支度してすぐに行きます」
 昨日の夕食を食べそびれてお腹が空いていたから、すぐにでも飛び出して行きたかったけど、さすがに着替えた方が良さそう。
「では、先に行っとるからのう」
 ベレルさんがドアの前から去っていく足音が聞こえた。
 急いで洗濯して干していた下着に変えて、昨日買い物した町娘風の服に着替えた。やっぱり自分が作った物より、履き心地がよい方がいいからね。
 一階に行くと、ベレルさんが座って待っていてくれた。
「お待たせしました」
「昨日の夜はどこかに行かれていたかのう。ノックしても応答がなかったから、ちと心配になったが、何もなかったようで良かった」
「すみません、疲れていたようで眠ってしまって、夕食も食べそびれてしまいました」
 ベレルさんに心配をかけてしまったのを謝った。本当にいい人だなぁ。
「そうか、治安が悪くないといっても、夜は危険だからのう。一人で出歩いていなさったわけじゃなければそれでよい、よい」
 ベレルさんがひとりでに頷いた。
「心配してくれてありがとうございます。夜は一人で出歩かないようにしますね」
「お節介が過ぎると思われるかもしれんが――」
「朝食お待ち!」
 女将さんが朝から元気よく、二人分の朝食をテーブルに置いた。
「ありがとうございます」
「ごゆっくり」
 女将さんは忙しそうに他のお客さんのところに行った。
 宿泊者用の朝食は決まっているみたいで、注文しなくて持ってきてくれた。
 パンとスープと火を通した野菜とウィンナーと目玉焼きがトレーに乗っていた。
「では食べるとするかのう」
 ベレルさんは何か言いたそうな顔をしていたが、お腹が好いて今にも涎が出そうな私に気が付いて気を使ってくれたのかもしれない。
「はい、いただきます!」
 我慢出来なくて、急いで手を合わせて、即座にスープを口に入れた。
 美味しい! シンプルな味付けだけど、美味しい。
 ベレルさんが笑いをこらえているように見えたけど、ここは気が付かない振りをして一心不乱に食べ続けた。
 食べ終わって一息ついたところで、ベレルさんが切り出した。
「この後はどこか行きたいところはあるかのう。良ければ案内するが」
 願ってもない申し出に便乗することにした。
「あの、食材を売っている店とか、日用品を売っている店とか色々見てみたいのですが、この近くにありますか」
 昨日通ったところには、食材を売っているスーパーみたいな店は見かけなかった。これからどうするかはまだ決めていないけど、いつまでも宿暮らしという訳にもいかない。これから生活していくにも、庶民の生活を知る必要がある。
「そうだのう、少し歩くが、市場があるのう。では、この後そこに案内しようかのう」
「ありがとうございます」
 ベレルさんは軽く頷くと立ち上がった。
 二人は一度部屋に戻って出かける支度をした後、外に宿の外へ出た。

 昨日通ったところとは別の道を歩いていくと、市場に出た。
 うわぁ、すごいわ。美味しそう!
 露店というか屋台みたいな店がズラっと並んで、見たことがある野菜や果物がたくさん売っていた。野菜は瑞々しくて新鮮そうだ。肉は干し肉のようなものが売っていたり、焼いたお肉が売っていたりした。他にも、飲み物や食べ歩きできるような物が売っているエリアもあった。
 食材は元の世界とあまり変わらなさそうね。野菜も果物も見たことがないものもあるけど、大半は知っている物だった。ただ、肉は見た目だけではよく分からない。表示にはイノシシ肉とかウサギ肉とか色々な肉の名前が書いてあった。
 オークのモモ肉? オークってよくゲームとかに出てくる魔物? え、食べられるの? 美味しいのかな?
 どんどん奥に行くと、下町のような場所に出た。ここでも露店や屋台があったが、ここは食料品ではなくて、服とか小物とか色々の物が売っていた。
 観光地の露店のような雰囲気がするわ。
 取り敢えず、庶民が買い物できる場所もあるみたいで安心した。でも、この街に住むかどうかはまだ迷っている。ここで私のできる仕事ってあるのかな? 私にとってここより住みやすい街ってあるのかな?
 ベレルさんをちらっと見て質問してみた。
「ベレルさんはどこの街に住んでいるのですか?」
「ワシか? ワシは王都で暮らしているよ。ワシの店も王都にあるのでな」
「王都ってどんなところですか? 私でも住めるところなのですか?」
「そうだのう。王都はこの街とは比べものにならんくらい広いのう。色々な人が住んでいるのが、王城があるから警備が厳しい分、治安は良い。城下町もかなり栄えておるのう。メイナも王都に来るかの?」
 ベレルさんの話を聞く限りでは、王都は日本でいう東京みたいな感じかな? 大きな街の方が仕事を見つけやすいかも。
「はい! 私、王都に行きたいです!」
 不安よりワクワクした気持ちが強くて、思わず大きな声を出してしまった。
「そうか、そうか。それなら、早いところ正式な身分証明のできる物を作らんとのう」
 ベレルさんがニコニコして言った。
 私が王都に行くのを喜んでくれているのかな。
「あ、そうでした。身分証明はどこで作れるのですか?」
 すっかり忘れていた。今はまだ仮のものだったわ。
「そうだのう。平民が手っ取り早く作るなら、冒険者ギルドか商業ギルドに登録することかのう。他にもギルドはあるが、すぐには登録できないからのう」
 ベレルさんは顎に手をかけて少し考えてから答えた。
 冒険者ギルド! ますますゲームみたいな感じだわ。でも魔物を倒したりなんて私にはできそうもない。日本人に生まれてこの方、戦争は知らないし、食用だろうと動物を殺すようなこととも無縁な私が、いきなり戦えるわけがない。そんな危険なことは命がいくらあっても足りないわ。折角生き返ったんだから、すぐに死にたくもない。
「冒険者ギルドはやっぱり魔物を倒したりするんですよね?」
 認識の違いがあるかもしれないから、念のため聞いてみた。
「そうだのう。魔物を倒したり、護衛をしたり、盗賊や賞金首を捉えたりするのう。だが、薬草に必要な植物を採取したりする仕事もあって、選べるから、危険なことばかりでもないのう」
 私の心配な気持ちを察してか、ベレルさんが教えてくれる。
「商業ギルドはどういうところですか?」
「そうだのう、ワシら商人や生産者や商売に関する仕事をする大半の人が登録しておるのう」
 仕事をするならこっちの方がいいのかな。
「そうですか、では商業ギルドに登録した方がよいですか?」
「う~ん、メイナが王都でどういう仕事をしたいかまだ決まっておらんようだったら、両方登録して置いた方がよいかもしれんのう。王都で登録することもできるが、この街で登録した方が、審査が厳しくないからのう」
「そうなんですか?」
 同じギルドでも街によって審査が違うの?
「そうだのう、王都は良くも悪くも国王が住む街だからのう」
 王都はそれだけ特別な街ということかな?
 それならベレルさんのアドバイスに従っておいた方が良さそうだわ。
「分かりました。では、冒険者ギルドと商業ギルドに登録にします」
「では、まず冒険者ギルドに行くかのう」
 
 ベレルさんに案内してもらって、冒険者ギルドに着いた。
 何だか役所みたいだわ。
 思わずキョロキョロしてしまった。
 受付らしき所には綺麗な女性がいた。
 声をかけようと近づいてみたら、向こうから声をかけてきた。
「登録ですか? 依頼ですか? 受注ですか?」
「あ、えっと、登録をお願いします」
 緊張しながら答えた。
「身分証明できる物をお持ちですか?」
「いえ、持っていないです」
「では、こちらに名前と住所か滞在場所を書いてください。登録料は銀貨一枚になります」
「はい」
 紙らしき物とインクとペンを渡された。おそらくペンをインクにつけて書くのよね。
 名前と宿の名前を書いた紙と銀貨一枚を取り出してお姉さんに渡した。
「はい、確かに受け取りました。少々お待ちください」
 お姉さんは受け取ると、丸い水晶玉みたいなものを目の前に置いた。
「これに左手で触ってください」
 言われた通りにした。
「もういいですよ」
 お姉さんの合図に左手を引っ込めた。
「お疲れさまでした。これが登録カードです。どの街の冒険者ギルドでも使用可能です。依頼を受けて達成するとランクが上がります。最初はFランクから始まります。あちらの掲示板に依頼票がありますので、そちらを登録カードと一緒に受付に持ってきて初めて受注となります。依頼が完了したらまたカードを持って報告ください。何かご質問はありますか」
「えっと、一度も依頼を受けないとどうなりますか?」
「何もありません。ランクが上がらないだけです。無理に依頼を受ける必要はありません。ランクによって受注できる依頼が異なりますが、ご自分が出来る範囲の依頼を選んで受けてください」
 お姉さんが始終笑顔で対応してくれた。
「ありがとうございます」
 机に置かれた自分の登録カードを手に取ると、お辞儀してその場を離れた。
 試しにどのような依頼があるのか、掲示板を見てみた。オーク討伐、王都までの商人の護衛、薬草の採取などたくさんの依頼が書いてあった。ランクFが受注できるのは、薬草採取や木の実の採取、畑仕事の手伝いなど戦闘とは無縁の依頼ばかりのようだ。
 Fランクの仕事なら私でも出来そうだから、王都に着いたら一応冒険者ギルドにも顔を出してみようかな。
 
 その後、商業ギルドにも行き、同様の登録手続きをした。どのような商売をするのか聞かれて答えられなかったのだけど、ベレルさんの口添えと王都に行くという話をしたら、すんなり登録してもらえた。
 身分証明カードを作ることで、初めてこの世界の住人になったんだと実感することになった。
 そして翌日、ベレルさんと馬車で王都に向かった。道中にどういう仕事をしようか考えながら、ワクワクした気持ちで王都に着くのを指折り数えていた。
 王都でこれからの人生を左右するような数々の出会いが待ち受けているとは夢にも思わずに――。

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青猫かいり

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