異世界で逆ハーレムってアリなんですか?

 街中にくると、石畳の街並みに石造りの建物がズラリと並び、商店、宿屋や施設らしきものがあるようだった。人通りも多く、馬車が走り、警備兵や漫画とかでよく見た武器を持った冒険者のような恰好をした人たち、町人など様々な人が歩いていた。この街の繁華街かな?
 珍しくてついキョロキョロしてしまい、ベレルさんに遅れそうになると、ベレルさんが歩調を緩めてくれた。
「そうだのう、女性の服装のことはよく分からないが、この店なら評判もよいし、ここに入ろうかのう」
 ベレルさんが足を止めたと思ったら、服屋と思われるお店の扉を開けて私に入るように促した。
「ありがとうございます」
 礼を言ってから中に入った。ベレルさんも続いて入ってきた。
 店内はカジュアルな服装がたくさん並んでいた。通りで見かけた町娘風の女性が着ていた服に似た物が多い。高級店じゃなくてよかった。
「ラクアさん、この娘、メイナに似合う服を見繕ってもらえないかのう」
 ベレルさんは店員と顔見知りなのか、気軽に声をかけた。
「ダムラトリー様のお孫さんですか?」
 ラクアと呼ばれた店員が尋ねた。
「まぁ、そうじゃのう。よろしく頼むのう」
 ベレルさんはそう言うと、店内の端にあるソファに腰かけた。
「はい、お任せ下さい。さあ、メイナ様、ご希望はありますか?」
「えっと、動きやすい服がいいです。女性用のスボンとかはありますか?」
 辺りを見渡すが、女性用はスカートが多い。
「え? ズボンですか? そういえば、あまり見ない服をお召ですね! これはどこで買われたのですか? 王都ではこういう服が流行りですか? あれ、でもこれスカートじゃないんですね。それにこの生地、柔らかくて肌触りもいいですね。シルク? でも少し違うような――」
 近い、近い! ラクアさんのテンションが高くなって、前のめりに近づいてきて、質問攻めになってきた。
 そうか、化学繊維が混じっている生地だから、この世界にはないのかもしれない。デザインというより、生地で目立ってしまうのね。
でも本当のことは言えないから取りあえず誤魔化そう。
「あ、あの、取りあえず、生地は綿とか比較的柔らかくて動きやすい服ありますか? あと、ズボンじゃなくても、こういうキュロットとかでも良いのですが」
「キュロット? その下の服はキュロットというんですね! ああ、私もそういう服着てみたいわ。そうね、自分で作ればいいのよね。あの、一旦着替えたら服見せてもらえませんか? あと、取りあえず服はこの辺りの平民の娘がよく着る服と、動きやすい服なら冒険者が着るような服もあります。女性用のズボンを着るのは冒険者ぐらいですね。普通の娘はスカートやワンピーズが多いですね。あとはオーダーメイドも承っております。貴族のご令嬢はオーダーメイドか貴族専用のお店で買われることが多いですから、既製品は普段着ぐらいでしょうか」
 ラクアさんが一気に捲し立てて言った。あまりの勢いに押されそうになった。
「え、ええ、では町娘に流行りの服を一式お願いします。あと、下着とかもありますか?」
 前の世界の中世ヨーロッパの人が下着を着ていなかったという話を聞いたことがあったが、別世界だから文明が似ていても違うところもあるかと思って確認してみた。
「ありますよ、これです」
 ラクアさんが出してきた下着、というのは、私が今着用している下着とは違った。一つはシュミーズ、もう一つは薄手で膝までのスパッツみたいなもので、ドロワーズとも少し違うようだった。
「あの、この他にはないのですか?」
「別のサイズと別の色のものはありますが、デザインは大体同じですね」
 どうしよう。下着のオーダーメイドなんて恥ずかしいから頼めない。パンティとブラがないのは困ったなぁ。取りあえず自分で作るしかないか?
「あの、じゃあこれ三つください。あと、布と裁縫セットは売っていますか?」
 シュミーズの方を買うことにした。それとダメ元で聞いてみた。
「うちでは扱っていないですが、小道具屋や布屋なら売っていると思いますよ」
 ラクアさんが親切に教えてくれた。
 よし、後でベレルさんに連れていってもらえるか聞いてみよう。
「ありがとうございます。あと、コレと、コレと、コレと、あ、コレもお願いします」
 いくつか服を適当に選んだ。
 試着室を探したが、見当たらない。
「あの、試着ってできますか?」
「試着、ですか? 試しに着てみたいということですか?」
 ラクアさんがきょとんとした顔で言った。
 もしかして、この国では試着してから買い物するという習慣はないのかも。
 変な事を言ったと思われたかな?
「あ、いえ、何でもないです」
「え、あ、もしかしてサイズが合うかどうかを確認したかったということですか? それでしたら採寸して合ったサイズのものをお渡ししますから、安心してくださいね」
 ラクアさんが笑顔で答えた。
「あ、ありがとうござします」
 思わずお礼を言っていた。
 勿論サイズのこともあるけど、色合いとか、自分に似合うかどうかなどを試着して確認する習慣はないってことがわかった。
 ラクアさんに採寸してもらい、渡されたものをそのまま買った。
 試着室はないけど、採寸した奥の部屋で、一着だけ着替えさせてもらった。
 結構な荷物になったのだけど、ラクアさんやベレルさんにアイテムボックスの存在を知られるのはどうかと思って、躊躇した。
 ラクアさんがたくさん買ったから、と袋をサービスしてくれたけど、普通は買い物袋とかもないらしい。やはり、荷物を入れる鞄とか必要だわ。いつまでもポッケからお金を出すフリも怪しまれそうだわ。
「ベレルさん、お待たせいたしました」
「よう似合おうとるのう。買い忘れたものがあればまた買いに来ればよいから、取りあえず宿に向かうかのう」
「はい、荷物もあるので助かります」
 ベレルさんが歩き始めたので、私も後に続いた。
 少し歩いたところで宿に着いた。名前はカタバミ亭というらしい。看板が読めた。外観はこじんまりとして二階建てのレストランのように見えた。
 中に入ると、日本でいうホテルとは違って二階建ての民宿という感じだ。しかもフロントとかもない。
「いらっしゃいませ。――ベレルさん、いらっしゃい」
 ふくよかな体形の女性が声をかけてきた。おおらかで肝っ玉母ちゃんみたいな印象を受けた。ベレルさんとは顔見知りらしい。常連なのかな?
「女将さん、またお世話になるのう。部屋は二つ空いていなさるかな」
 ベレルさんがにっこりしながら尋ねた。
「はい、空いていますよ。今回は何泊? こちらはベレルさんの孫娘さんかい?」
「まぁ、そういうじゃのう。年頃の娘だから、部屋は別々にしておくれ。取りあえず三泊ぐらいかのう。延長するかもしれんが」
 ベレルさんが女将さんにお金を渡していた。
「あいよ、じゃあコレ、鍵ね」
 女将さんがベレルさんと私に一つずつ鍵を差し出した。
 ベレルさんは鍵を受け取ると、奥の階段を上がっていく。
「お世話になります」
 私はお辞儀して鍵を受け取り、慌ててベレルさんの後を追った。部屋は隣だった。
「ベレルさん、宿泊代は前払いですか? 私の分は自分で出しますから」
「一泊朝食付きで銀貨五枚になるが、良ければわしのおごりで構わんだがのう」
「いえ、お金ありますので、払います。ベレルさんにはお世話になっていますから、お金ぐらいは自分自身できちんとしたいのです」
 そう言って、銀貨十五枚をベレルさんに手渡した。
「部屋に荷物を置いたら、少し遅いが一階で昼食でもどうかのう」
 部屋に入る前にベレルさんが言った。
「はい、是非ご一緒させてください」
 そういえば目覚めてから何も食べてない。喉も渇いてきたからちょうどいい。
 笑顔で返事をすると、部屋の中に入った。
 一階は食事処で、二階が宿泊施設になっているらしい。部屋数は少なさそうだ。
 部屋に荷物を置いて一息ついてから、部屋を出た。
 ベレルさんが先に来て席についていて、私が階段を下りてくると、手招きした。
 テーブルにつくとメニューを探した。黒板のような物にいくつかのメニューが書かれていた。
 宿泊者以外にも食事ができるらしいから、普通のレストランと変わらない。
 女将さんとウェイトレスがフロアと宿エリアを切り盛りし、ご主人が料理長で料理を担当しているらしい。
 ランチのピークは過ぎたみたいで、お客様は半数ぐらい。まだテーブルに食事後の皿が乗っているから、さっきまでは混んでいたみたいだ。
「ここの店は、何を食べても上手いが、今日のランチならシチューがおすすめかのう」
 ベレルさんがオススメを教えてくれた。
 この世界の食べ物や食材が元の世界と同じものなのか、ちょっと不安だったけど、オススメなら安心かも。
 今日のランチメニューの欄を見ると、ウサギ肉のシチューというのが書かれていた。多分コレのことだ。ウサギ肉、ってあのウサギよね? 食べたことないけど、この国では当たり前に出る肉なのかな? 取りあえず食べてみないと分からないし、オススメを食べた方が良さそうよね。
「注文は何にするかい?」
 女将さんがオーダーを取りに来た。
「わしはシチューと水で」
「あ、私も」
 ベレルさんと同じものを頼んだ。
「あいよ。すぐ持ってくるから待っていな」
 女将さんがそういうと、厨房の方へ戻っていった。
「ところで、メイナの村ではお金が必要ではなかったと言っておったが、この国や他の国の大きな街、この街もそうだが、基本的にお金で物を買うからのう。見たところ、銀貨は持っているようだが――。モノを知らないということが分かると、騙したりする不逞の輩もおるからのう。特にお金のことはしっかりせんといかん。お金の知識はどこまで知っていなさるかな?」
 さっき部屋で休憩した時に、アイテムボックスのお金を確認したから、どのくらいもっているかは分かった。でもこの国の物価は分からない。ここはベレルさんに教えてもらった方が良さそうだ。
「実はよく分かっていません。手持ちから、銀貨と金貨と銅貨と白金貨というものを持っていますが、その関係性が分かりません」
 正直に答えると、ベレルさんが驚いたような顔をした。
「白金貨を持っていなさるか! それは必要な時以外は他の者に言ってはならん。銀貨はまだ良いが、金貨も多く持っていると、よからぬ輩に目を付けられかねん」
 ベレルさんは小さな声で言った。
「はい、気を付けます」
「まず知識が必要だの。銅貨は十枚で銀貨一枚と交換でき、銀貨十枚で金貨一枚と交換できる。白金貨は金貨十枚と交換できるのだ。大きい商会や宿屋など高い金額で取引する場所は金貨や白金貨でも問題ないが、露店や小さな店では銅貨や銀貨しかお釣りが出せない場合もあるでのぅ。取り扱っている商品を見て使い分けるとよいのう」
 ベレルさんが親切にもお金に関しての忠告をしてくれた。確かに、無用なトラブルは避けたい。ベレルさんの説明だと、さっき渡した銀貨十五枚は、金貨一枚と銀貨五枚で良かったということね。硬貨の数え方が日本と同じ十進法で覚えやすくて良かったわ。
 そう言えば、アイテムボックスのお金、日本の物価で考えるのは難しいと思っていたけど、銅貨一枚が百円、銀貨一枚が千円、金貨一枚一万円、白金貨一枚十万円と考えれば、元の世界の貯金額と一致する気がする。全財産をこの世界に持ってこさせてくれたのね。リリネス様、ありがとう!
「分かりました。ありがとうございます。これで心置きなく買い物ができます」
 ベレルさんにお礼を言った。
「はい、お待ち!」
 女将さんが元気よく言って、テーブルに二人前のシチューとパンと水の入ったコップ、それとスプーンを置いた。
 シチューはホワイトシチューで湯気が立っていて熱そうだった。
「いただきます」
 いつもの習慣で、手を合わせてから、スプーンを手に取った。
 ふと視線を感じてベレルさんを見ると、少し不思議そうな顔をしていた。
「メイナ、それは食前の祈りか何かな」
 そうか、この国ではこういう習慣はないのね。
「えっと、私の育った村では、お祈りではないのですが、食材の生産者や調理した人達や動物などの食材の命そのものをいただくという意味で感謝を込めて、両手を合わせて『いただきます』といってから食べるのが習慣でした。食べ終わった後も、手を合わせて、『ご馳走様でした』と言います。幼い頃からの習慣ですが、何か問題になったりしますか?」
 一通り説明した。もしこの行為に問題があるようだったら、気を付けないと。
「いや、そうだったか。問題はないのう。この国の食事のマナーとしてはそういう習慣がないが、教会に勤めている神官や信心深い者達の中には感謝の祈りを捧げてから食事をする者もおるのう。ただ、メイナはそういう者とは思ってなかったし、その場合はもっと長い言葉だったのでのう」
「そうでしたか。この国の宗教はどういったものがあるのですか?」
 ついでに宗教について聞いてみた。
「この国は宗教国家ではないが、国教といえるのは、王家が設立し、王族が運営しておる女神リリネス様を崇拝する教会かのう。ただ、他の国の神様を崇拝する教会もあるし、建国の祖を神と崇める者たちもおるし、新しくできた教団もあってのう。強制ではないから、どこにも属していない者もおるし、選ぶのは自由だのう」
 そうか、この国は宗教の自由が認められているのね。その辺りは日本と同じだわ。でも、この世界って、リリネス様が唯一神っリリネス様自身が言っていたんだけどなぁ。
「安心しました。宗教の自由が認められているなら良かったです」
 ほっと胸を撫で下ろした。
 スープが冷めちゃいそうだったので、慌てて口に運んだ。
 ――美味しい! 元の世界で食べた味と同じだわ。食って大事よね。取りあえず味覚が同じようで安心した。ウサギの肉も臭みがなくて鶏肉に近い感じがして食べやすい。シチューにとっても合うわ。
「美味しそうに食べるのう。見ているとワシまで嬉しくなるのう」
 ベレルさんが目を細めて微笑んだ。

読んでいただきありがとうございました。
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青猫かいり

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