異世界で逆ハーレムってアリなんですか?

「あれ? 寝てた?」
 目が覚めてゆっくりと体を起こした。辺りを見渡すと日本でも見たことがあるような木々に囲まれていた。木漏れ日が幻想的な雰囲気を醸し出している。どうやら林の中で寝ていたようだ。
 本当に死んじゃって、異世界に転生したのかな? まだ実感が湧かないわ。女神様に会ったのも夢だったりして……。でも、この場所は知らない場所だ。
 すぐ脇には林道があり、少し離れたところに泉があるのが見えた。
 近づいてみると、泉は底が見えるぐらいに澄んだ水で、魚が泳いでいるのも見える。水面が光に反射して、自分の姿を映した。
 ホントに若返っている! 十五歳の時の私だから十五年年前かぁ。懐かしいわぁ。やっぱり、肌つやが違うなー。
 嬉しさのあまりに小躍りしそうになった。
 でも若返っているってことは、本当に死んじゃったのね。女神様に会ったのも夢オチじゃなかったか。それならここは異世界ということで間違いないということだ。日本に帰りたいという気持ちはあるけど、帰ったところで、毎日仕事が忙しくて学生時代の友人とは疎遠になっていたし、彼氏もいなかったから結婚も考えられなかったから、異世界で半分やり直しの人生は私にとってラッキーだったかもしれないわ。
 恋だって、何だってできるかもしれない。家族に縁が薄かった私に家族だってできるかもしれない。もう後戻りできないなら、前に進むしかないわね。
 そう思うと、気持ちが軽くなった。
 ふと服装を確認すると、白いブラウスにネイビー色のフレアタイプのロングキュロットに淡い紺色の薄手のジャケットを羽織っていて、首にはオレンジ色のスカーフを巻いていた。どうやら服装は日本で着ていた服のままで、若返って体が全体的に縮んだように見えるけど、サイズはぴったりだった。足元を見ても、靴はいつものスニーカーで、こちらのサイズぴったり。
 流石は女神様。
 感心していると、だんだん喉が渇いてきた。
 この水、飲めるのかな? 確か物でもステータス見られるのよね? 泉のステータス!
 念じると、ステータス画面が現れた。
 ふむふむ、アルタナ林の泉、無害の水、あらゆる生き物が飲める、植物の生育にも使用可能……ってことは飲めるのね。無害ならお腹壊さなくてすむわ。
 泉の水を両手で掬うと、迷わず飲み干した。
 美味しい! ただの水だけど、とっても美味しい。静かだし、空気も綺麗な気がするし、ここはいいところだわ。
 でもここに住む訳にはいかないから、村とか街とかを探さなきゃ。
 私は立ち上がって、林道へ向かった。

 しばらく林道を歩いていたら、開けたところに出た。もう少し歩いたところに、大きな外壁に囲まれた門が見えてきた。
 大きな街なのかしら? まあいいわ、行ってみれば分かるから――。
 不安はあるものの、取りあえず門まで歩いた。
 ここがどこの国のどんなところか調べよう。外壁のステータスは、っと――コルセルリア王国のトリタナス領内の街・サクトリアの外壁、か。
 門の前には門番らしき人が二人立っていて、同じ服を着ている。おそらく制服だろう。
一人は日本人に近い顔立ちだけど、もう一人は堀が深くていかにも外国人という顔立ちだった。
 あ、むしろ私が外国人か……。
 門の前に向かって右側に、小さい詰所みたいな小屋があり、そこの窓からも同じ制服を着ている人がちらっと見えた。
 荷物を担いだ人や馬車などが門番の前で止まっていて小さい列を作っていた。
 私もその列に並んだ。
 無事に門の中に入れてもらえるかな? 女神様、信じているからね!
 祈るような気持で順番を待っていた。
 でも段々順番が近づいてくると不安になって、一つ前に並んでいる、あまり身分が高くなさそうな服を着ている年配の男性に声をかけた。
「あの、すみません。この門を通るに何か必要なものがあるのでしょうか」
 恐る恐る声をかけた。そう言えば、この世界に来て初めて話すのよね。ちゃんと私の言葉って通じているかしら?
 初老の男性が振り返って、私をじっと眺めた。頭から足のつま先まで見られたような気がする。
見知らぬ人から声をかけられたのだから、私だって怪しんで同じことをするかも。だから不思議と感じが悪いとは思わなかった。
「お嬢さん、お一人か? 見たこともない生地に仕立ての服を着なさっているが、いいとこのお嬢さんかな? どこから来なすった? 通行書か身分証明になる物を見せれば通れるよ」
 おじいさんが親しみやすい笑みを浮かべて優しく答えてくれた。
 十五歳はまだ子供扱いしてもらえそうだ。 嘘をつくのは忍びないけど、別の世界から来ました、と言っても信じてもらえないだろうし、頭のおかしい人だと思われかねないよね? ここはやはり適当に誤魔化すしかない。
「私、庶民、いえ、平民です。えっと、小さな田舎の村から出てきたのですが、閉鎖的な村だったので、顔見知りばかりで、身分証明とかそういったものがありませんでしたし、村の外に出たのも今回が初めてなのです。ですから外の世界のことはあまりよく分からないので困ってしまって……」
 うう、心が痛い。これは完全な嘘だよ……。
「家族は随分前に亡くなって身寄りもいないし、故郷にはもう二度と帰れないのです」
 これは本当のことだった。
「そうかそうか、それは難儀だったのう。色々と事情はありそうだが、聞かないでおくよ。門番には正直に持っていないと言えば、仮の通行証を発行してくれるから心配しなさんな。荷物もないようだから、検査もほとんどなしですんなり入れてもらえるだろう。但し、仮の通行書にはいくらかお金がかかるがのう。お金は持っていなさるか」
 おじいさんが心配そうに聞いてくれた。必要以上に詮索せずに聞いた以上のことを教えてくれて、更に心配もしてくれているみたい。声かけた人がいい人そうで良かったわ。
 ――あ、しまった。うっかりしていた。先にアイテムボックス確認しておけば良かった。
 リリネス様が確かアイテムボックスにお金を入れておいてくれるって言っていたから大丈夫なはず、よね?
「はい、村ではほとんどお金が必要なかったので、手仕事をして売ったお金を貯めてあったので、持ってきました」
 発行料がいくらか分からないけど、さすがにそれぐらいのお金あるよね、リリネス様!
「そうか、それなら大丈夫だろう。ほれ、そろそろ順番が来るのう」
 おじいさんが前に向き直って歩き始めた。門番に身分証のようなカードを渡し、手続きを始めた。
 もう一人の門番が私に近づいてきた。
「すみません。私、通行書も身分を証明する物も持っていませんので、仮通行証を発行してもらえますか」
 緊張しながらも不審に思われないように、気を配って話した。
「分かった。こっちへ来てくれ」
 門番の後を追って詰所の出窓のところへきた。
「料金は銀貨五枚です。先払いになります」
 詰所の中に居た人がトレーみたいなものを差し出してきた。
 この上にお金を乗せるってことね。
 私はポケットに手を入れると、アイテムボックスから銀貨五枚を取り出した。こうすれば、ポケットからお金を取り出したように見えるかなと思って。街中に入ったらちゃんとした鞄か何かを買って、そこから出し入れしているように見せた方がよいかもしれないわ。
 トレーにお金を置くと、
「はい、確かに受け取りました。では、この台に左手を乗せてください」
 と台を指差して言われた。
 ちょうどぎりぎり手の届くところに台があって、左手を乗せた。
「はい、もういいですよ。特に問題ありません。これが貴女の仮の通行証です。紛失しないでくださいね。有効期限は一週間です。期限が切れる前にカードを返却しこの街から退去するか、正式な身分を証明できる物を入手して下さい」
 と言いながら、私に通行証(仮)と書かれたカードを渡してきた。
 これで無事門を通過できそう。
 ――良かったぁ。あのおじいさんに事前に聞いていたおかげで手続きが簡単に済んだ。マジ感謝だわ。
 門を通って中に入ると、門の付近は何もなかった。少し遠いところからぽつぽつと建物らしき物が立っているのが見える。
「お嬢さん、無事に入れたようだのう」
 親切に教えてくれた例のおじいさんが私を待っていたようだった。
「ありがとうござました。おかげで手続きがスムーズにできました」
 言いながら頭を下げた。
 おじいさんはニコニコしていた。
「見たところ十三、四歳ぐらいに見えるが、しっかりしておるのう」
 おじいさんが孫を褒めるように目を細めて言った。
「あ、いえ、十五歳になります」
 あまり嘘はつきたくなくて、思わず訂正していた。中身は三十歳だけど、肉体は十五歳だから、これは嘘ではないわ。
「そうか、この街というか国では十六歳が成人になるから、まだ子供扱いになるのう。そうなると、宿を取るにも不便だのぅ。こんなに可愛いお嬢さんが一人というのは、色々問題があるかものぅ。この街は比較的治安は良いが、どこにでも良からぬ事を考える輩がおうでのう。……そうだのう、ワシはしばらくこの街に滞在するつもりだから、お嬢さんさえ良ければ、この街にいる間はワシの孫ということにせんか? そうすれば、厄介事も減るだろうて」
 おじいさんが良いことを思いついた、というような表情で言った。
 見ず知らずのおじいさんに甘えていいのかしら? それに、何故そんなに私に親切にしてくれるのだろう? 何か裏があるとか? でも確かに未成年の娘がこんなところで一人だったら、危ないかもしれないわ。このおじいさんは悪い人には見えない。こういう直感は昔から結構当たるのよね。あ、そうだ、他人のステータスを見られるのをすっかり忘れていたわ。どれどれ――名前はベレル・ダムラトリー、年齢六五歳、コルセルリア王国の王都・ヴァルゼトラの商人。ふむふむ、特に怪しいところはなさそうね。改めておじいさんを見ると、いかにも善良な優しいおじいさんという感じがした。ここはおじいさんの好意に甘えておこうかな。
「いいのですか? 一人で心細かったので、是非ご一緒させてください」
 おじいさんの提案に乗ってお願いした。
「よいよい。そうと決まったら、名前を教えてくれるかの。ワシはベレル・ダムラトリーといって、見ての通りのじいさんだ。名前のベレルの方で呼んでおくれ」
 おじいさん、もといベレルさんがお道化た感じで自己紹介した。
 名前がベレルでダムラトリーが姓みたいね。
「私はメイナ・カミナカと申します。メイナとお呼び下さい。宜しくお願いします」
 私は軽くお辞儀をした。
 この世界の挨拶の仕方は知らないから、今まで通りにしてしまった。
「では、この街で比較的安いが料理は上手い宿に案内するかのう。そこでこれからのことをゆっくり話そうかのう。あ、その前にその服装は目立ちそうだから、お店で買い物をするといい。案内するから付いておいで」
 おじいさんは嬉しそうに軽い足取りで先行した。
 私はおじいさんに置いていかれないようにすぐ後ろをついていった。

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青猫かいり

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