勇者の血脈~始祖は伝説の迷い人~

 冒険者ギルドへと戻ってきた。
 出発前に冒険者ギルドの近くで人目つかない処を探しておいたおかげで、帰りは楽に帰ることができた。
「依頼の薬草と魔物はどうすればいいのかな?」
 リュリウスに話しかけた。
「以前と変わりなければ、あちらの鑑定カウンターでまず本物か鑑定し、問題なければ回収され、依頼票にサインされるので、それを受付に持っていけば報酬がもらえます。魔物はギルドの解体職人が解体し、依頼に必要な部位だけを回収し、残りは返すか買い取りをしてくれるはずです」
「じゃあ、依頼以外の魔物はどうするの?」
「ギルドに買い取りしてもらうか、解体だけしてもらって、解体料金を支払い、高く買ってもらえる商人や商会に売るという手もありますが、相場が分からないものはギルドにお任せする方が無難です」
 リュリウスの言う通りにした方が良さそうだ。
「分かった」
 そう言うと、鑑定カウンターに向かった。
 カウンターにはお父様よりもっと年上の男性がいた。
「依頼票と依頼の薬草です」
 魔法袋から取り出して、依頼票と薬草をカウンターに置いた。
「確認しますので、少しお待ちください」
 男性はそう言うと、依頼票と薬草を手に取って確認し始めた。
「はい、確かに。依頼達成になります」
 男性は依頼票にサインをして、僕に渡した。
 受け取って魔法袋に入れると、今度は他の依頼票を全部出して、カウンターに置いた。
「これらの依頼票の魔物もあります」
 僕がそう言うと、男性は依頼票を手に取って、一枚ずつ見ては驚き、驚きすぎて変な顔になっていた。
「へ? これ全部? って、これBランクの魔物じゃないか! これはCランク? 君が一人で狩ったのか!?」
 男性は変な声を出したかと思ったら、カウンター越しに僕に詰め寄ってきた。
「ううん、全部じゃないよ。リュリウスが狩ったやつもあるし」
 僕は同意を求めるかのようにちらっとリュリウスの方を見た。
「私が狩ったのは、コケット鳥とワイルドウルフだけですけどね」
 リュリウスが苦笑いして言った。
「え? 他は全部この子が? 信じられない! それで、その狩った魔物はどこに?」
 男性が驚きすぎのあまりカウンターにお腹をぶつけながら尋ねた。
「この魔法袋の中だよ。解体してないから、カウンターに出せなくて」
 魔法袋を見せて言った。
「依頼以外の魔物もありますので、そちらも鑑定と解体をお願いしたいのです」
 リュリウスが付け加えて言った。
「分かりました。では、解体前に鑑定しますから、解体場の隣の確認スペースに案内します」
 男性は近くにいた人に話しかけた後、カウンターから外に出てきた。
「では、案内しますので、付いて来て下さい」
 男性は僕達に背を向けると、ゆっくりと歩き始めた。僕達も遅れないように後に続いた。
 受付フロアを突っ切り、訓練場とは反対の方向に行き、別の建物に入った。
「こちらの部屋です」
 男性がドアを開けて僕達に入るように促した。何もなくて広めのスペースで、これなら魔物をたくさん出しても大丈夫みたいだ。
 男性はポケットから手袋を取り出して、両手にはめた。
「まずは依頼票の魔物を出しましょう」
 リュリウスが僕を見て言った。
 僕は魔法袋から、取り敢えず依頼のあった魔物を出した。
「――本当に二人で全部狩ったのですね」
 男性が驚きながらも、慣れた手つきで一つ一つ丁寧に魔物を確認した。
「はい、間違いないですね。依頼票の通りの魔物で、依頼の部位も良い状態です」
 男性が全ての依頼票にサインをすると、僕に手渡した。
「依頼の部位以外はどうされますか?」
 男性が尋ねた。
「全て買い取りをお願いします。――レオン様、良いですね?」
 リュリウスが僕に承諾を求めてきたので、僕は返事の代わりに頷いた。
「分かりました。後は、依頼になかった魔物があるとか」
 男性が僕を見た。
 僕は魔法袋から、巨大鳥など残りの魔物を全て出した。巨大鳥のあまりの大きさにスペースの半分以上を使ってしまっている。
 後は、割れないようにそっとコケット鳥の卵を一つ出して、手に持ったまま見せた。
「――!?」
 男性が魔物を見て驚きのあまり声が出ないみたいだった。
「あの、この卵、割れるといけないので、どこに置けばいいですか? まだあと二つあるのですが」
 男性に声をかけると、彼は我に返って僕の方を見た。
「あ、ちょ、ちょっとお待ち下さい!」
 男性は動揺しているのか、慌てた様子でドアから出て行った。
 ドア開けっぱなしだよ?
 僕はリュリウスを見た。
「心配はいりませんよ。多分、珍しい魔物がいるから、おそらく誰かを呼びに行ったのだと思います」
 リュリウスは冷静に言った。
 バタバタと複数の足音が段々近くなって聞こえてきた。
 多分二人かな? 一人はきっと応対していた男性だと思う。
「お、お待たせ、しましたっ!」
 男性が入って来るなり、息を切らせながら言った。
 もう一人を見ると、何と、試験の時に対戦したグリートさんだった。
「やっぱりお前らだったか!」
 グリートさんが僕達を見るなり言った。
「こちらは当ギルドのギルドマスターです」
 男性がグリートさんを改めて紹介した。
「え? グリートさん、ギルドマスターだったの?」
 驚いた。てっきり元冒険者の試験管か何かだと思っていたから。
 リュリウスは驚いていないみたいだから、知っていたのかな?
「ああ、よろしくな」
 グリートさんが腕を組んで言った。
 男性は冷静さを取り戻したのか、また丁寧に魔物を確認していた。
「間違いありません。SSランクのロック鳥です!」
 男性が声を張り上げてグリートさんに報告した。
「その卵も見せて下さい」
 男性がそっと僕の両手から卵を受け取ると、じっと見つめた。
「これ、コケット鳥の卵ですよ! 幻の卵です! 状態もかなり良いです! 私の判断では値段がつけられません!」
 男性がグリートさんに向かって言った。
「本当か⁉」
 グリートさんが驚いた顔をして卵と男性を見た。
「本当です。見たことがない卵でしたので、鑑定スキルで確認しましたので、間違いありません」
 男性がはっきりと言い切った。
「お前の鑑定スキルはうちのギルト一だから、疑いの余地はねぇな。――それにしても、二人で大量の魔物を狩ってきた上に、遭遇するのも珍しいSSランクの魔物倒すわ、幻の卵取ってくるわで、Fランクのままにしておけねぇわな。ただ者じゃねぇとは思っていたが、まさかここまでとはなぁ」
 グリートさんが頭をぐしゃぐしゃと掻きながら言った。
「マスター、リュリウスさんが言うには、コケット鳥とワイルドウルフ以外は、全てレオンハルト君が一人で倒したそうですよ。それと、この卵、まだあと二つあるそうです」
 男性がグリートさんにぼそっと言った。
 グリートさんがものすごい目を見開いて僕を見た。
「あ? 坊主が一人でか? どうやって倒したんだ?」
 グリートさんの目が怖い。いや、怒っている訳じゃなさそうだけど、何だかコワイ。
「レオン様は、私がロック鳥の足に掴まれて痛みと出血のため気絶して攫われてしまったところを助けてくれたのですよ」
 リュリウスが僕の代わりに答えた。
「見たところ、魔法ではなくて剣か何かで首を切り落としたように見えるが、攫ったってことは飛んでいたんじゃねぇか? どうやって首を落とす?」
 グリートさんが眉間にしわを寄せて言った。
「えっと、僕、飛行魔法を使えるので、こうやって飛んで、そしてこの刀でこうやって――」
 僕は飛びながら魔法袋から日本刀を取り出して、再現してみた。
 リュリウス以外の二人が口をあんぐり開けて僕を見ていた。
「レオン様は魔法も剣術も得意なのですよ」
 何故かリュリウスが得意げに言った。
 グリートさんは我に返り、あっ、という顔をした。
「坊主、確か名前はレオンハルト・アカツキだったな? 思い出したぞ! 風の噂でアカツキ公爵領の領主の息子が領内に現れたベヒーモスを倒したと聞いたが、子供が倒したなど信じられんと気にも留めていなかったが……。そうか、あれも坊主の仕業か?」
 グリートさんが僕を凝視して言った。
 鑑定した男性はビックリして卵を落としそうになった。
 そんなに噂になっていたの? だからあの時、宰相さんもうちに来たのかな?
「そうです。レオン様が倒しました。しかし、箝口令を出していたはずですが、やはり人の口に戸は建てられないといったところですね」
 リュリウスがため息を吐いて言った。
「あの、僕、目立ちたくないから、内密にしてほしいです。うちの領地、元々貧乏だったところに、色々あって、更にお金が必要になったから、僕が冒険者とかでお金を稼ぎに来ただけなのです」
 僕はグリートさんにお願い、という顔を向けた。
「ですが、アカツキ様、公爵家の令息に粗相があっては、ギルドにどのような影響があるか計り知れません。公爵様はご存知なのでしょうか?」
 鑑定人の男性が畏まって僕に尋ねた。
「はい、冒険者として活動することを父から許可もらっています」
 僕は笑顔で答えた。
 リュリウスも頷いた。
「そりゃそうだ。大人顔負けの強さだし、魔法もおそらくかなりの使い手と見た。心配はするだろうが、反対はしないだろう」
 グリートさんが納得したような顔で言った。
 公爵家の人間と分かっても、グリートさんの態度は変わらない。何だかそれが嬉しい。
「マスター! 公爵家の令息にその口のきき方は失礼ですよ」
 男性がグリートさんを窘めた。
「いえ、そのままでいいです。僕は公爵家の人間としてではなくて、他の冒険者と同様に扱ってほしいです。他の冒険者に知られるのも困ります。そのつもりでお願いします」
 僕がそう言うと、男性はほっとした顔をした。
「挨拶が遅れましてすみません。私はミルックと申します。以後お見知りおきを」
 鑑定人の男性、いや、ミルックさんが貴族向けの挨拶をした。
 そんなに畏まらなくていいのになぁ。
「コイツが固いのは普段からだから、気にするな。誰に対しても、丁寧語だ。言葉だけはな」
 グリートさんがミルックさんの肩を抱いて言った。
 そういえば、子供の僕にも最初から丁寧語だった。口調はあまり変わってないみたい。
「卵を落とすといけないので、離れてください!」
 ミルックさんがグリートさんに蹴りを入れた。
「はいはい」
 そう言って、グリートさんはミルックさんから離れた。
「坊主、滅多に市場に出回らないものは、相場が分からん。取り敢えず買い取らせてもらうが、オークションに出してその売れた値段から手数料と儲けの二割を引いた差額を後日支払うってことでいいか? 売れなかったり安かった場合でも、お金は返さなくていい」
 グリートさんが提案してきた。
 リュリウスを見ると、頷いていた。
「分かりました。それでお願いします」
「OK。ミルック、念の為、今の条件をまとめた契約書を作れ」
 グリートさんがミルックさんに命令した。
「承知。すぐ作ってきます」
 そう言って、ミルックさんはドアから出て行った。
 グリートさんは隣の解体場にいる人に声をかけた。
「おい、ここのやつ、解体してくれ。巨大な鳥もあるから人手がいるぞ」
 隣の部屋から二人出てきたが、魔物を見るなりぎょっとして、また解体場に戻っていった。二人では運べないと思ったんだろうね。
「それでは、私達は取り敢えず、先に受付で依頼達成の報酬をもらって待っていますね」
 リュリウスがグリートさんに言った。
「さあ、行きましょう」
 リュリウスに促されて、受付に向かった。
 
 受付でお姉さんに依頼票を渡した。
「えぇ!?」
 お姉さんが素っ頓狂な声を出した。
 周りの人がビックリしてお姉さんを見ていた。
「二人だけで? 一度に高ランクの魔物をこんなにたくさん? 一人は子供よ? でもちゃんとミルックさんのサインもあるわ! 間違いないわ」
 お姉さんは依頼票を何度も確認しながらブツブツ言っていたが、我に返って慌てて僕達の方を見て、少しぎこちない笑顔を見せた。
「し、失礼しました。依頼達成です。もしかしたらランクが昇格するかもしれませんが、Bランクより上はギルドマスターの承認がいりますので、後日受付で更新することになります。依頼達成の報酬は、全部で金貨七十五枚と銀貨八枚になります」
 お姉さんが最初は驚きながらも、落ち着いて対応してくれた。カウンターに金貨が入った袋を置かれたので、すぐさま魔法袋にしまった。
「お腹空いたなぁ」
 僕がつぶやくと、リュリウスがそれを聞き逃さなかった。
「それでは、待っている間に食事を済ませましょう」
 受付フロアに隣接している食事コーナーを見た。
 ギルドで買い取った動物や魔物の肉を使った料理も食べられるみたいだ。
 魔物って美味しいのかなぁ?
 どうせなら食べたことがない物を食べてみたい!
 食事コーナーに来たら、いい匂いがしてきた。
「いらっしゃい、オススメは新鮮なコケット鳥の串焼きだよ!」
 食事コーナーで給仕係のお姉さんがオススメしてきた。もしかしてリュリウスが狩ったやつかな?
「野菜のスープとコケット鳥の串焼き下さい」
 お姉さんに声をかけた。
「私も同じものを」
 リュリウスも僕の後ろからお姉さんに声をかけた。
「かしこまり! 座って待っていてね!」
 お姉さんがカウンターの奥に戻って行った。
 食事フロアの空いているテーブルセットの椅子に座った。
「リュリウスは食べたことあるの?」
「はい、前に何度か。野宿の場合、食料は現地調達になる場合が多いですからね。美味しいですよ」
 リュリウスが微笑んだ。
 楽しみだなぁ。
 待ちきれなくて、今か今かとカウンターを見ていたら、さっきのお姉さんが二人分のトレーを持ってこっちにやってくるのが見えた。
「はい、お待ちどうさま! お代は一人銅貨七枚です!」
 お姉さんが僕たちのテーブルにトレーを置いて言った。
「二人分です」
 リュリウスがそう言ってお姉さんにお金を渡した。
「まいど!」
 元気なお姉さんは看板娘みたいだ。あちこちでお姉さんを呼ぶ声が聞こえて、すぐに去っていった。
「うわぁ、美味しそう!」
 僕はよだれが出そうになった。
 串焼きは長い串に大き目に切られたお肉が五つも刺さっていた。
 口いっぱいに頬張ると、肉汁が口の中でジュワーっと溢れてきた。
 美味しい!
 夢中になって串焼きにかぶりついた。
「お肉は逃げませんから、ゆっくり噛んで喉に詰まらせないで下さいね」
 リュリウスが目を細めて笑っていた。
 串焼きとスープを堪能し終わった頃、ミルックさんが僕達を探してやってきた。
「お待たせしました。ギルドマスターの部屋まで案内します」
「分かりました」
 リュリウスが返事をした。それが合図で、僕達は席を立った。
 ミルックさんの後を歩いていくと、今度は階段を上がって、二階の一室に案内された。
 ここがグリートさんの仕事部屋みたいだ。
 お父様の執務室に似ている。執務机があって、資料とかの本棚があって、中央には応接セットがある。
 グリートさんが応接セットに座って待っていた。
「おかけください」
 ミルックさんは僕たちにグリートさんの反対側のソファーに座るように促すと、自分はグリートさんの後ろに立って控えていた。
「わざわざ部屋まで来てもらってすまんな。鑑定と解体は終わった。本来は受付で渡すんだが、額が額なんでな。目立つのは避けたいみたいだし、こっちとしても、ちと話があってな、それでこの部屋まで来てもらった」
 グリートさんが真面目な顔で言った。
「依頼以外の分の買い取りだが、全部で白金貨千五百八十七枚と金貨五十三枚になった。お金はそこに用意してある」
 グリートさんがテーブルの脇にある大きな袋を指さした。
「ええ? そんなに大金もらっていいんですか⁉」
 僕は驚きのあまり、立ち上がってしまった。
 リュリウスはあまり驚いていないみたい。
「お前さん達が狩ってきた魔物は状態もよくてほとんどが素材として使えるし、肉も食べられる。魔石も上物だ。それに何と言っても、幻の卵とロック鳥の希少価値が高すぎる。これでも安いかもしれん。悪いが、この値段で買い取らせてくれ。卵の件は、約束通りオークション次第で追加の代金を支払う」
 グリートさんはそう言うと、契約書をテーブルに置いて差し出した。
 リュリウスがそれを手に取り、内容を確認した。
「確かに。代金の受け渡しがあれば、アカツキ領の公爵家にご一報下さい」
 リュリウスが僕の代わりに段取りをつけた。
「分かった。そのように手配しよう。それでだ、話っていうのはな、まずは今回の魔物を全て引き取ると言ったが、すまん、ロック鳥の魔石だけはうちで買い取りができん。オークションで売ることも考えたが、――とにかく大きすぎる。上質であの大きさ、取り扱いを間違えると色々と厄介なことになりそうでな、あれだけは引き取ってくれ」
 グリートさんがそう言うと、ミルックさんがどこからか、人間の頭より大きくてキラキラ光っている丸い魔石を持ってきた。
「分かりました」
 ミルックさんから受け取ると、魔法袋にしまった。ついでに報酬のお金も魔法袋に入れた。
「それとな、坊主。今回の件で、お前さんの実力はSランクに相当することが証明された。ギルドマスターとしては速やかに昇格させ、領主と国に報告する義務がある」
 グリートさんがソファーにもたれて腕を組みながら言った。
「Sランク?」
 僕はリュリウスの顔を見た。
「Sランクとは冒険者ギルドで特別に認めた最高ランクですよ」
 リュリウスが僕に説明してくれた後、そしてグリートさんの方を向いて言った。
「――レオン様はまだ子供ですよ! 確かに実力的にはSランクの中でも優れていると思いますが、Sランクともなると、危険な指名依頼も出てくるでしょうし、良くも悪くも厄介な方達から目を付けられないとも限りません。利用されるのも、特に国から目を付けられるのは本望ではありません」
 リュリウスが荒い口調で言った。
「色々と事情があるのは察するが、坊主のことだ、嫌でも目立つだろう。既に国には目を付けられているんじゃないか?」
 グリートさんがちらりとリュリウスを見た。
 確かに一度宰相さんが会いにきたことがあったけど、グリートさんがそれを知っている訳ないよね?
 リュリウスは少し顔を引きつらせていた。
「解体した者達からSSランクのロック鳥が倒された話が出回るのは時間の問題だろう。変な噂が立つ前に通常の手続きをした方が、変に勘繰られることもねぇだろう」
「確かに、一理あります。しかし、お金を稼ぐために一時的に冒険者活動をしたまでで、今後もずっと続けるわけではありませんし、できれば穏便にすませたいのです」
 リュリウスがグリートさんに一歩も引かずに言った。
「しかしなぁ……」
 グリートさんが頭を掻いて唸った。
「マスターの立場上、昇格と報告はするべきです。実力のある者を故意に隠していたと思われるのは、危険分子とみなされて処罰されるかもしれませんから。ですが、もし指名依頼がきたら、マスターが未成年の為、公爵様の承諾が必要など相手に直接伝えればよいではないですか? そうすれば、公爵以上の身分の方ならともかく、平民はおろか、貴族でさえ指名依頼を撤回するでしょう」
 ミルックさんが極めて冷静に意見を言った。
「分かりました。お立場もあるでしょうし、こちらの我が儘を通す訳にもいきませんね。ミルックさんの提案に乗ることにしましょう。くれぐれもお願いしますね」
 リュリウスの方が折れる形で話がついたみたいだ。
「あと、リュリウス、お前さんはAランクに昇格だからな」
 グリートさんがニッと笑って言った。
「――分かりました」
 リュリウスがため息交じりに言った。
「坊主、ほら、これ、持っていけ」
 グリートさんが真っ白で綺麗だけどとてつもなく大きい羽根を二枚僕に差し出した。
 僕の身長の二倍以上の長さがありそうだ。
 そっと羽根の下に手を入れて受け取った。
 軽い!
 思ったより軽くてビックリした。
「ロック鳥の風切羽の中で一番小さくて綺麗なヤツを左右で選んだ。俺からのプレゼントだ。倒した記念に持っておけ」
 グリートさんが僕の頭を撫でて言った。
「ありがとうございます!」
 お礼を言うと、傷つかないようにそっと魔法袋の中に入れた。

読んでいただきありがとうございました。
宜しければご感想など頂ければ嬉しいです。

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