――いつからだろう。隣に座って昼食のおにぎりを美味しそうに頬張っている親友、速川祐一の言動が気になり始めたのは……
俺、早瀬透は親友の横顔を見つめながら考えていた。
「ん? どうした? 食べないのか?」
祐一が俺の顔を心配そうに覗き込んできた。
ドキッ――。心臓がバクバクしている。
「――た、食べるよ! ちょっと考え事していただけだ」
彼の横顔を見つめていた事に気が付かれないよう、そっと視線をずらして言った後、バレてないか恐る恐る祐一の顔色を窺うと、
「なーんだ、食べないのなら貰ってやろうと思ったのに」
祐一が無邪気な笑顔で悪戯っぽく言った。
またしても心臓の鼓動が跳ねる。俺は誤魔化すかのように急いでお弁当をかっ込んだ。
俺と祐一は高校一年生の時に同じクラスで、名簿順で席が前後だったのがきっかけで話すようになり、今では親友と呼べる間柄だ。二年生になり、クラスは分かれてしまったが、こうやって昼食を一緒に取ったりすることも多い。今日は天気がいいから二人で屋上に来ている。
「今日、部活休みならさ、久々にカラオケ行かないか?」
俺が聞くと祐一はすまなさそうに言った。
「ごめん。今日はクラスのヤツらとカラオケに行く約束してて――あ、お前さえ良ければ一緒に来るか?」
「あ、いや、知らない人は苦手だし、やめておくよ」
胸がチクリと刺すように痛かったが、何でもない振りを装って断った。
「そっか、じゃあ、また今度な。はー食ったら眠くなってきた」
祐一はそう言うと横になり、しばらくすると気持ち良さそうに寝息を立て始めた。
俺は祐一から目が離せなかった。
祐一は男前だし、人見知りする俺とは違って、人懐こくって、優しくて話し上手でいつでも輪の中心にいるから友達も多い。新しいクラスでもたくさんの友達が出来ているみたいだ。彼から他の友達の話を聞くと、最近は何故か胸がチクチクと痛む。でも微笑まれると胸が熱くなる。理由は分からないけど、彼の言動に一喜一憂している自分がいる。
――まさかね。俺もコイツも男なのに、好きとかありえねぇ。身長だって俺と同じ位でどちらかといえば背が高い方だし、女と間違える顔でもないし。きっとクラスが別々になってちょっと寂しいだけだよな。
心の中で何度も自問自答しては、疑念を晴らそうとした。同性をそういう意味で好きになるなんてあり得ない。勿論今まで男をそういう目で見たことなんてないし、初恋も女の子だった。いいヤツだけど、それは親友として好きであって、恋愛感情ではないと、何度もそう自分に言い聞かせていた。
屋上に心地良い風が舞い、祐一の髪の毛が揺れる。無意識にそっと髪の毛を触ろうとした時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
はっと我に返って慌てて手を引っ込めた。
自分は一体何をしようとしていたのか。何故無性に彼に触れたくなったのか分からない。チャイムが鳴ってなかったら、どうなっていたことか。考えただけで青ざめそうになる。
「あれ? もう時間? 眠い……」
祐一は起き上がると欠伸をしながら両腕を上にして体を伸ばした。
「そろそろクラスに戻らないとな」
俺は動揺を隠しながら言った。祐一は俺の様子には全く気が付いていないようだった。
「じゃあ、行きますか」
祐一の合図で二人は屋上を後にした。
午後の授業が終わって帰る途中、道の反対側の歩道で祐一がクラスの連中と一緒に歩いているのを見かけた。何の話をしているのかここからは分からないが、とても楽しそうに笑っていた。
――まただ。また胸がチクっとする。段々酷くなっているような気がする。どうして他の人と楽しそうにしている祐一の姿を見ると、胸が痛むのか……。本当に寂しいだけなのか、親友を取られたような気がするだけなのか分からない。これを恋だと認めてしまえば何かが壊れてしまうような、そんな気がして仕方がない。
俺は祐一から逃げるかのように走って家路を急いだ。
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