今日はお店の定休日。
薬や雑貨、お菓子などをたくさん作り置きした後、夕方になって久しぶりに冒険者ギルドにやってきた。
「こんにちは、依頼の受注ですか?」
ギルドの受付のお姉さんは今日も笑顔で応対してくれる。
「いえ、今日はキラービーの蜜を買いたいのですが、在庫ありますか?」
大量に買うなら、素材屋で買うよりギルドで買った方が安いとセドリックさんに教えてもらったの。
「はい、どのぐらい必要ですか?」
「えっと、この瓶に満タンに入るぐらい?」
私が大きな瓶を出すと、お姉さんが少し驚いた顔をしたけど、すぐに営業スマイルを見せて言った。
「申し訳ありませんが、在庫全部入れても足りないです。そこで提案ですが、ギルドに依頼してみませんか? その方が早いですよ」
「そうですか、では依頼します。手続きお願いします」
一応私も冒険者の端くれなんだけど、とても怖くて自分で採収なんてできそうもないわ。
「では、こちらの用紙に必要事項を記入してまた受付までお越しください」
差し出された用紙を受け取って、一度受付を離れた。
空いている机を見つけて陣取った。
キラービーって難易度高いのかしら? 報酬はいくらぐらいが相場なのかお姉さんに確認すれば良かった。
「おい、ガキ、さっさとしろ、この役立たず」
「何だ、その目は! 俺達に逆らおうっていうのか?」
「誰のおかげで生きていけると思ってんだよぉ。俺達に拾われなかったら、お前とっくに死んでるってぇの」
見るからに荒っぽい三人の男達が、転んで尻餅をついた少年を蹴ったり踏んだりしているのが見えた。少年は泣きそうになるのをこらえて男達を睨み付けていた。
周りに人はいるけれども、皆関わり合いになりたくない様子で、見て見ぬ振りを決め込んでいた。
よく見ると、少年はヨレヨレでところどころ破れていて薄汚れた服を着ていて、顔も体もドロか何かで汚れていて、手足は十分に栄養が行き届いていないのか、子供にしても細い気がした。それに反して男達はちゃんとした冒険者的な服を着ているし、やせ細ったりはしていない。
この人達、最低だわ。やせ細った子供にあんなに荷物持たせて、ちょっと転んだだけなのに、暴力振るって。許せないわ。
思わず体が動いた。少年を庇うように、三人の男の前に立ちふさがった。
「やめてください。子供になんてことをするんですか? あなた達は大人として最低ですよ!」
私がそう言うと、男達はニヤニヤと下衆な顔で近寄ってきた。この人達の事はゲス男ABCと呼ばせてもらおう。
「お嬢ちゃん、アンタがこいつの代わりに俺達の面倒でも見てくれるのかな?」
「俺は年増の方が好みなんだが、アンタみたいな美少女なら話は別だぜ?」
「身寄りがないってんで、面倒見てやってんだ。お嬢ちゃんには関係ないから引っ込んでろって言いたいところだが、一晩相手してくれるならそれで勘弁してやってもいいぞ」
男の一人、ゲス男Aが私の手首を掴んだ。
「手を離してください!」
思わず自由になっている方の手で、男の頬を叩いてしまった。
「このアマ、調子に乗るなよ! タダで済むと思うなよ!」
男が怒りを顕わにして私の手を掴んだまま引き摺ろうとした。
「その手を離してやんな」
どこからか男が現れて、ゲス男達を睨んで言った。男達はその男が誰か知っている様子で、私の手を離すと一歩後ろに下がった。
「あ、あんたの連れか?」
ゲス男Bが動揺しながら男に尋ねた。
「いや? でもよぉ、正義感強くて勇敢なお嬢さんが頑張ってるんだ、応援したくもなるだろう?」
男の口調は軽いが、目は笑っていない。ゲス男達をずっと威嚇しているような気がする。
「んっだと、てめぇ!」
「おい、やめろっ! 敵う相手じゃねぇ」
ゲス男Cが男に食ってかかろうとするのを、ゲス男AとBが必至に止めていた。
「さっさと失せな。二度と俺の前に面みせるな」
男が鋭い眼光で睨み付けたままこっちに近づいてきた。
「フンッ! 今日のところは勘弁してやる」
「お嬢ちゃん、またな」
ゲス男三人組が捨て台詞を吐きながらその場を去ろうとした。
「おい、待て、忘れモンだ」
少年が背負っていた荷物を男が、振り返ったゲス男Aに投げつけた。
ゲス男達は荷物に押されてよろけそうになりながら走って逃げていった。
「ありがとうございました」
私は男に頭を下げてお礼を言った。
「大したことじゃねぇよ」
男はフッと笑って言った。
次は少年の目の間にしゃがんだ。
「大丈夫? 怪我してない?」
「んだよっ。助けてくれなんて頼んでねぇよっ。余計な事すんな」
少年は警戒しているようにも、強がっているようにも見えた。
「でも、ほっとけなかったの。私の自己満足だから気にしないで」
私はにっこり微笑んだ。助けたんだから、ちゃんと最後まで面倒見ようと思う。
「君さえ良ければ、一緒に来てくれる? あとお名前教えて欲しいな」
私は手を差し出した。
少年は戸惑った様子で私の手を見つめていた。
「頼んでないかもしれねぇが、助けてもらったんだろ? お礼ぐらい言っとけ」
男が少年の頭をグシャグシャしながら言った。
「んだよ、子供扱いすんなっ」
少年が男の手を払いのけた。
「……あ、ありが、とう。お姉ちゃん」
少年が俯いて、小さな声で言った。
「結果的には、このお兄さんに助けてもらったようなものなんだけどね」
ちょっと恥ずかしそうに言った。
だって、結局私も他の人に助けてもらったから、自分で責任持って対処できなかったしね。
「あいつらは最近王都にやってきたパーティなんだが、悪評ばかりで目立っててな。坊主には悪いが、今度大きな問題でも起こしちまったら、ギルド除籍処分は免れねぇ。下手したら牢屋行かもな」
男がさらっとすごいことを言った。
そんな男達に歯向かったのね、私。この人がいなかったら今頃どうなっていたのかな?
考えたら今頃になって身震いしてきた。
「オレ、汚いから手を触ったら、お姉ちゃんまで汚くなるよ」
少年がそう言いながら手をごしごし服で拭いていた。
私の手を拒否した訳じゃないと分かって嬉しくなった。
「私はメイナ。君の名前は?」
「オレは……トゥール」
少年がおずおずと答えた。
「いい名前ね! 汚れたら洗えばいいんだから、気にしないで」
私はトゥールくんの手を取って一緒に立ち上がった。
「えっと、貴方のお名前も教えていただけますか?」
男と目が合って、そう言えばまだ名前を伺っていない事を思い出した。
「俺はレスト。冒険者だ」
改めて見ると、レストさんは身長が高くて程よく筋肉が取れていて、冒険者としても強そうなワイルド系な男前。頬にも傷があって、カイト様をもっと野性的にしたようなイメージかな。
「私はメイナ・カミナカです。オアシスというお店の店主です。お礼をしたいので、お時間よろしければ私のお店にいらしてもらえませんか? ダメなら後日必ずお礼しにきます」
「分かった。今から一緒に行こう。お礼はどっちでもいいが、坊主の事も心配だし、あいつらが待ち伏せしてるかもしれねぇからな」
レストさんが真剣な顔で言った。正直、それなら一緒に来てもらえると有り難いわ。
「では、店までの護衛のお礼もさせてもらいますわ。あ! 忘れてた! すみません、受付に用事があるので、少しお待ちいただけますか?」
「ああ、構わねぇ。行って来いよ」
レストさんが私を見て苦笑いした気がした。
用紙を持って急いで受付に行って発注を済ませると、慌てて二人の処に戻ってきた。
「すみません、お待たせしました」
「おう、もういいのか?」
「はい、後は帰るだけです。お店は王都第三警備団の常駐詰所の隣の敷地にありますので、かなり歩く事になりますが……」
「坊主、歩けるか?」
「それぐらい歩けるに決まってる」
トゥールくんがレストさんに子供扱いされたと思って拗ねた口調で言った。
でもちょっと気になって、トゥールくんのステータスをこっそり確認してみた。
やっぱり。足、怪我しているわ。
「トゥールくん、足怪我しているよね? ちょっと動かないで。はい、この薬飲んで? 私が作った物だけど、効果は保証するわ」
私が薬を差し出してもトゥールくんは受け取らなった。
「……飲めないよ」
トゥールくんが俯いて断った。
「大丈夫よ! 私の店で売っている薬だから。怪しい物じゃあないわ。安心して飲んで」
「……薬なんて高くてお金、払えないから」
トゥールくんが小さな声で言った。
「お金なんて気にしなくていいのに。でもそうね、じゃあこうしましょう。――ヒール」
私はトゥールくんの足に手をかざして、治癒の魔法をかけた。
「あれ? 痛くない!」
トゥールくんが驚いて足で地面を叩いたり、飛んだりした。
「アンタ、魔導士か?」
レストさんが私をじっと見てくる。
「えっと、ちょっと魔法が使えるだけなんで、魔導士と名乗るのはおこがましいかと」
苦笑いして答えると、レストさんはしばらくじっと見続けていたが、フッと笑って視線を外した。
「まあいいか。坊主も元気になったことだし、アンタの店まで連れてってくれよ」
「はい、お願いします」
そう言ってトゥールくんの手を繋ぐと、先に歩き出した。その後をレストさんが付いてきた。
お店に着くと、まず二人にお風呂を案内した。レストさんはともかく、トゥールくんは本人も気にしていたし、衛生的にも清潔にする亊に越したことはないしね。で、ついでにレストさんにも汗を流してもらうことになった。うちの浴槽は広いから二人が足を伸ばして入ってもまだ余裕があるしね。
「まず、この、シャワーというんですが、ここを押すと水が出て、こっちを押すとお湯が出ます。この様に取り外したままでも、ここに戻しても使えますので、髪の毛を洗う時は取付てお湯を出した方が使いやすいです」
実際に使いながらシャワーの使い方を説明した。
「シャワー? へぇ、便利な物があるんだなぁ。風呂ぐらいは知っているが、これは見た事ねぇな」
レストさんがマジマジとシャワーを観察した。
「これがシャンプーで、これがリンス、これが顔や体を洗う用の石鹸です。自由に使って下さいね」
一通り説明したところで、後はレストさんに任せようと思った。
「シャンプー? リンス? 石鹸? そんな高い物、使ったことねぇぜ?」
レストさんが首を傾げた。
「あ、そっか。では、使い方説明しますね。トゥールくん、こっちきてここに座って」
トゥールくんで実際に使い方を説明することにした。
「本当は服を脱ぐんだけど、服のままでごめんね。今から頭にお湯をかけるから、少し下向いて、いいと言うまで目を瞑っていて」
そうしてトゥールくんをモデルにシャンプーとリンスを実際に使って見せた。
「後は石鹸ですが、顔を洗う時はこうやって手で泡立ててから使います。体はこのタオルでこうやって泡立ててから、体を洗います」
「ああ、なるほどな。大体分かった。後は任せろ」
レストさんが頷いた。
「じゃあお願いしますね。服は脱衣所のこの篭に入れておいてください」
そう言い残してお風呂場を後にした。
二人がお風呂に入っている間に、家にあった布でトゥールくんの下着と寝間着を作ってみた。といっても、時間がないので簡単なものばかりだけどね。
サイズを測ってなかったけど、脱いだ下着と服を参考にしたから、多分大丈夫。ちなみにレストさんの着替えは必要ないと言われたので、用意していない。
「あの、バスタオルとトゥールくんの着替え置いておきますから、使ってくださいね」
風呂場に隣接している脱衣所から声をかけた。
「サンキュー」
レストさんの声が風呂場から響いて聞こえた。
もう夜だし、二人もお腹空いているだろうと思って、一応カレーライスを作ってみた。
あっちの世界でルーから手作りするのにハマって作っていた記憶を思い出して、こっちでもカレー粉を作ることに成功していた。
お客様に出すのは初めてだから、少し辛さを抑えた方がいいわね。少し蜜とミルクを足してっと。うん、うまく出来た。
この世界にもお米はあったのだけど、玄米のまま売っていて、健康にはいいけど、味がイマイチと評判が悪くて、どこの商会でも売れ残っていたのを買い占めたのよね。農家の人にも余っている米を全て売ってもらって、次からは全部私が買い取る契約もギルドを通してしてもらったから、これで米がいつでも食べれるわ。精米機がないから、炊く直前に魔法で精米するのは手間なんだけどね。
「何作ってるんだ? 初めて嗅ぐ匂いだな」
レストさんが台所にやってきた。どうも匂いにつられて来たらしい。
火を止めて振り向くと、レストさんが上半身裸で腰にバスタオルを巻いただけの状態で立っていた。
「キャアー!! 服、着てください!」
慌てて両手で視界を塞いで叫んだ。
「すまねぇ、いつものクセでな。驚かしちまったか?」
「驚いたというより、目のやり場に困りますって!」
「そうか、着ていた服を着ようと思ってたんだが、あまりにもキレイに洗えたんでな、汚れた服を着るのも何だなぁって思っちまって」
「わ、分かりました。風邪を引くといけないので、もう一度お風呂に入って待っていて下さい」
「お、おう」
レストさんが台所を出て行ったのを見計らって、トランクスとスウェット上下のような服を超特急で作り始めた。
二人がお風呂から出て着替えて台所にやってきた。
「メイナさん、服、ありがとう」
トゥールくんが照れた様子で言った。
「どういたしまして」
気の強そうな少年が照れる姿って、ちょっとかわいいかも。
「俺の分までわりぃな。助かった。貸したヤツにも礼言っといてくれ」
レストさんがにこやかな顔をしていた。ギルドにいる時は鋭い目つきだったけど、今は少しだけリラックスしているような気がする。
「いえ、私が作ったんです。うちには私しかいませんし、男物の服なんてありませんから。それより、二人とも髪の毛が濡れたままだと風邪を引きますよ」
「ん? 風邪?」
レストさんが首を傾げた。
しまった。この世界では、風邪って言わないのかな?
「えっと、湯冷めして体調を崩しますよ」
慌てて言い直した。
そして誤魔化すように、二人の頭に手をかざして、温風を魔法で出した。
「うわぁ。温かい風だぁ」
気持ちいいのか、トゥールくんが嬉しそうにしている。レストさんも目を瞑って大人しくしていた。
「不思議な魔法の使い方をするんだな。よく魔力が尽きねぇな」
レストさんが不思議そうな顔をしている。
そう言えば、朝から結構魔力使っているんだけど、不思議と全然疲れていないし、減ってる気もしないんだよね。
そろそろ乾いた頃かと思って止めると、二人揃って自分の髪の毛を触って確かめた。
「すごい、乾いてるや」
トゥールくんが感動しているみたいだ。
「坊主、よく見るといい面構えだな。これは将来、女泣かせのイイ男になるかもな」
レストさんがニヤリとしてトゥールくんの頭をポンポンと軽く叩いた。
「あの、二人ともお腹空いてませんか? ご飯作ったので、迷惑でなければ一緒に食べて下さい」
「メイナさんが作ったの? いいの? オレが食べても」
トゥールくんが上目使いで遠慮がちに聞いてきた。
「ええ、勿論。一人で食べるより、大勢で食べた方が美味しいし、楽しいわ」
私は自然と笑みがこぼれた。
「お礼はいらねぇってカッコ付けちまったが、腹減っちまってさ。遠慮なく頂くぜ」
レストさんも少し嬉しそうだった。
「じゃあ隣の部屋に食事用のテーブルと椅子があるから、座って待っていて下さい」
三人分のカレーライスを皿に盛ると、大きなお盆に乗せて運んだ。
「お待たせしました」
三人分のカレーライスとスプーンと水の入ったグラスを置くと、私もトゥールくんの横に座った。
「不思議な匂い。これ何ていう食べ物?」
トゥールくんがじっと皿の中身を見つめた。
「この匂い、食欲そそるなぁ」
レストさんが物凄く匂いを嗅いでいる。
「えっと、これはカレーライスという私の故郷で子供から大人まで大人気の料理です。では、いただきます」
私は手を合わせて食べ始めた。
「いただきます」
トゥールくんが私の真似をしてからスプーンを手に取って米にカレーがかかったところを一口食べた。
レストさんも同様に食べた。
「「美味い!」」
二人の声が重なった。
気に入ったのか、二人とも物凄い勢いで水と交互にガツガツ食べ始めた。
気に入ってくれたようで良かった。子供のトゥールくんでも食べられるように少し辛さを控えたのが良かったみたい。
「これ、もうちょっと食いてぇんだけど、まだあるか?」
顔に似合わずレストさんが遠慮がちに聞いてきた。
ちょっと吹き出しそうになった。
「ふふ、ありますよ。ちょっとお皿貸して下さいね」
台所に行ってカレーライスを盛ってまた戻ってきた。
「はい、どうぞ」
皿を置くと、スプーンを咥えて両手を頭の後ろで組んで待っていたレストさんが嬉しそうにまた食べ始めた。
「ご馳走様でした」
食べ終わると私はまた手を合わせた。
「ご馳走様でした」
トゥールくんがまたもや真似をした。
何かちょっとかわいいな。弟が出来たみたいで。
「トゥールくん、デザートがあるんだけど、まだ食べれるかな?」
「うん。食べれるよ!」
トゥールくんが嬉しそうに言った。
私は台所に戻ってお口直しのアイスクリームを三人分と、トゥールくんには温かいココア、レストさんと私にはハーブティを用意してまた戻った。
ちょうどレストさんも食べ終わっていたみたいだ。
「デザートのアイスクリームです」
私が差し出すと、二人ともすぐに口を付けた。
「「冷てっ」」
また二人の声が被った。
「でも甘くて美味しい」
トゥールくんがとろけるような顔していた。
「こんなに冷てぇ物は初めて食ったな。甘くて口の中で溶けやがる」
レストさんはブツブツ言いながらも、嬉しそうに食べた。
「お口にあったなら良かったです」
私も溶けない内に食べなくちゃ。
食べ終わった頃には、トゥールくんがウトウトとし始めていた。
お腹いっぱいになって眠くなったのかな? どのみち泊まってもらうつもりだったら、丁度いい。
私がトゥールくんを抱き抱えようとしたら、レストさんが私の手を制して、
「俺が運んでやるよ」
小声で呟いた。
トゥールくんを起こさないようにそっと進んで、私の隣の寝室に案内し、ベッドに寝かせてもらった。布団を掛けると、完全に眠りに落ちたみたいだった。
忍び足で部屋から出ると、レストさんと一緒に食事した部屋に戻ってきた。
「アンタ、料理上手だな。ご馳走になった」
そう言って三人分の皿を台所に運んでくれた。皿洗いまでしようとしてたので、私が止めた。
「運んでくれてありがとうございます。後は私がやっておきますので」
「そっか、じゃあ俺は帰るとすっかな」
「もう遅いですし、レストさんさえ良ければ、今日は泊まって下さい」
「それは、夜のお誘いか?」
レストさんがニヤついて言った。
「えぇっ!? そ、そんなつもりで言ったんじゃないですよ! 揶揄わないで下さい!」
すぐさま否定した。すごく顔が熱い。もしかして茹でタコのように真っ赤になっているのかもしれない。
「一人暮らしの家に夜、男を招くのも不用心だが、泊めるってぇのもそういう意味に取られても可笑しくねぇって覚えておけ。ま、俺のは冗談だけどよ。男なんてケダモノだからな、気ぃつけねぇと、食われちまうぜ?」
レストさんが真顔で忠告してくれている。
そうだよね。ちょっと気が緩んでいたのかな。でもレストさんが無理やり私をどうにかする何て考えもしなかったわ。だって、男前だし、女性に不自由しているとは思えないんだもの。
「レストさんは女性にそういうご無体な事しないでしょう? でも他の男性はわかりませんよね、ちゃんと気をつけます」
私がそう言うと、レストさんは苦笑いした。
「まあ、坊主一人にしておくのも何だし、今日は遠慮なく泊めさせてもらうとすっかな」
「はい、あの部屋は私の寝室なので、それ以外で寝て下さい。では、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
レストさんは欠伸をしながらトゥールくんの隣の部屋に入っていった。
読んでいただきありがとうございました。
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